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“被曝農業時代”を生きぬく

「放射能汚染の土壌科学」シンポジウム、農水省マニュアルから自然凍土除染法、建設土木技術まで最新研究一挙採録


 水による土壌除去・攪拌とは、水田の表層土壌を水により攪拌(浅代かき)し、濁水を排水した後、水と土壌を分離して土壌だけを排出する方法である。土壌を攪拌して、粘土などの細粒子を排出することによる除染技術だ。廃棄する土の量が削り取りにくらべ少なく、繰り返し行うことができる。飯館村での実証試験では、土壌中の放射性セシウムが約36%低減した。土壌の種類にもよるが、宮下氏は低減率は30~70%と推定している。


今後の対策に向けて

 マニュアルでは、このような除染技術とともに、どの方法をとるかについての基本的な考え方も示されている(表3)。農地の放射線の濃度にあわせて、適した方法を採用すればよいのだが、「この濃度はあくまでも目安です」と宮下氏が付け加えた。除染すれば、排出した土の処理も問題だ。現在、原発処理として開発されているセシウム除去技術が、いずれ農地にも適用されるだろうという。

 また、農水省の調査で、空間線量率と土壌中の放射性セシウムの濃度に高い相関があることがわかり、そこから農地の土壌汚染濃度の分布も推定されている。詳細なものは後日発表される予定というが、現時点では放射性セシウムの濃度が土壌1kgあたり5000Bqをこえるところは、8400haもある。

 「農産物汚染の経路などのメカニズムはかなりわかってきました。土壌の種類は違いますが、チェルノブイリの経験も今後の対策にかなり適用できると思っています。ただし、環境条件や農業の形態は多様ですから、植物への移行対策などを含め広く総合的に考えなくてはいけません。また、環境中の放射性セシウムの挙動も長期的に監視し、生態への影響も考えていくことが必要です」と宮下氏は締めくくった。


粘土と一体で考える

 東京大学大学院農学生命科学研究科教授の溝口勝氏は、凍った土をそのままはぎとればよいという「自然凍土除染法」という新しい方法を考案した。溝口氏は、土壌学の専門家で「ふくしま再生の会」のメンバーとして山林除染の実験にも参加している。

 先にも述べたように、放射性セシウムは、粘土に強く固定され、土壌の表層の5cm以内に大部分が蓄積されていると報告されている。「セシウムは少量でも粘土の特定の部分に選択的に吸着されます。ですから、放射性セシウムはセシウム単体で考えるのはなく、粘土粒子と一体化して、つまり粘土コロイドとして考えることが、除染のポイントです。つまり、粘土をどうとればよいかということです」とまず放射性セシウムを除染するポイントを示した。溝口氏らが調査した飯館村の斜面では、上層の線量は2.5μSv/hであったが、斜面の下層は7.0μSv/hであった。これは、雨で粘土が斜面を流れて下にたまったためである。この調査から、粘度の移動に注意が必要なことがわかってきている。

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