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【大国の参加で例外なき自由化から高度の自由化へ】
TPPは小国の集まりから始まった。原始加盟国はブルネイ、ペルー、ニュージーランド、シンガポールの4か国である(2006年発効)。小国の場合、産業構造が比較的シンプルである。たとえば、シンガポールは農業がない。サービス産業とハイテク型製造業から成り、比較優位に特化した産業構造だ。食料は輸入に依存しているから、農業国とFTPを締結しても相互に補完しあうだけで、産業調整コストは発生しない。しかし、大国はフルセット型の産業構造が多く、関税障壁等をなくした場合、産業調整コストが発生する。FTP締結は国内に抵抗勢力があり、容易ではない。
こうしたことから、小国グループのTPPから、大国も参加するTPPに変わるとき、「例外なき自由化」というルールはハードルが高すぎ、そのままの維持は難しくなる。参加国が増えるにしたがって、市場統合の程度は低下したものにならざるを得ない。TPPルールは変質していかざるを得ない。
一方、タリフライン分析から分かることであるが、日本のコメは例外扱いしても「高度の自由化」は達成できる。実行関税率表の品目数は9000余あり、そのうちコメのタリフラインは34に過ぎないから(全体に占める比率は0.38%)、コメを丸ごと保護しても、日本の自由化率は99.6%となり、高度の自由化になるからだ。
米国も、オーストラリアとのFTPでは、砂糖を関税撤廃の例外としている。韓国とのFTPでは韓国のコメを除外した。このように、各国とも敏感な品目を抱えている以上、大国を含め参加国の数が増えるに従い、「例外なき自由化」は無理であろう。現実的な利益を考え、100%ではなく、「高度な自由化」の実現に向かうのは当初から自明だ。
それ故、筆者は、TPPを当てにしていると、はしごを外され、農業改革は進まなくなるので、TPPとは切り離して農業改革を進めるべきと主張してきた(前出拙稿参照)。
【農業の輸出産業化を目指せ】
TPPを梃子にした農業改革はなくなった。ならば、どうするか。やはり、「農業の輸出産業化」が一番具体的な道ではないか。
日本の農業貿易の異常は、保護主義のため市場開放されず「輸入がない」という事ではない。むしろ、日本は“世界一の農産物輸入国”と言っても過言ではない。表1に示すように、日本の農産物輸入額は504億ドル(約4兆円)と大きく、米国、ドイツ、中国等に次いで世界第5位の輸入国である。さらに、輸出を差し引いて純輸入額で見ると、日本は474億ドルの輸入超過であり、世界最大の輸入国である。ダントツの農産物輸入国である。
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