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【Opinion】
TPPで問われる農業経営者の責務逃避行動から脱却すべき時((株)デーリィーファーム宮坂代表取締役 宮坂隆男)
- (株)デーリィーファーム宮坂 代表取締役 宮坂隆男
- 2012年05月18日
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考えてみれば、農業界は貿易問題が起こる必ず、問題に直接向きあわず逃避行動をとってきた。
農協は農家組合員に対し、「危ないから逃げましょう」「危険に近づかないようにしましょう」「被害の及ばないところで見ていましょう」、と声をかける。これが営農指導の基本なのだろうか。
25年前の拙稿(先月号掲載)を読み返して苦笑してしまった。文中の問題は今もまったく同じだ。80年代の牛肉オレンジ自由化から現在のTPPまで何も変わっていない。
どうして農業界は同じ論法で対応するのか。農協とは年を取らない団体なのか。それとも、もともと老化・硬直した理念で動く集団なのか。21世紀にもなって不思議なグループがあるものだ。そんな感想を昆さんに話したところ、あらためて、雑誌に載せてみたいとのことだった。
私たちはあれから25年、どのように時間を過ごしてきたのか。国内農業を守り、国民の食を保証する理屈で問題を先送りにしてきたにすぎない。農業団体が選択した25年間の逃げの対応が国民にとって最良最適な選択だったのか。これからTPPが実効スタートする10年後を考えても、農業界が逃げ続けることにより農業・農村の活力発展につながり国民消費者に食の安全安心を保障できるとは到底思えない。
農業団体だけでなく、消費者グループも国内農業生産を守れと主張している。わが国農業の従来からの形を保守せよ、と国内の論理に立てこもる。それはグローバル化時代にあって、この国のものは他者には与えず占有したいとエゴイスチックに叫んでいることではないか。被害者である自分だけ良ければ良いといった変な独占欲による主張ではないか。非効率な生産形態でこの国土と水を占有するのを「善」とする欺瞞とエゴそのものでないか。「エコ」や「地球にやさしい」といった空虚なお題目を唱えているよりたちが悪い。
問題はTPPに参加するかしないかではない。問題の本質は多数のひ弱な農家群の存在だ。それをだしにして、このまま農協や取り巻き政治家、ならびに自発的行動ができない行政などにただ流されていっては最悪の結果をもたらす。
今回は逃げること、寝たふりをすること、ある種の独占欲で行動することがあってはならない。国際的で地球規模の物差しで自ら、価値判断を求められている時代である。外国による外圧にどう対応するかの時代ではない。そのような旧来の国家観は捨て去るべきだ。保守的で内向き場当たり的対応で、将来の保証などできるはずない。農業食料生産や食に携わる職業人として、心して掛からねばならないと思う。リスクの伴う判断を求められているが立ちすくんでいては問題解決を見出せない。背負う課題は重いが逃げていては事態の改善にはならない。
農業経営生産の中心にあるのは他ならぬ農業経営者である。農業経営者は自分理念にもとづいた確固たる自我を持ち、自分の内面に対し改善改革の態度を取ってはじめて、真っ当な経営者の在り方といえる。それがあって、対TPPとか対自由化、対少子化、対マーケット等々に対応できる資格がある。
この25年私たちの態度はどうだったのか。問題を先にやりに過ごしてきたと苦々しく自分自身、反省する。単に政治や農協の問題ではなかったはずだ。自分の経営と経営理念をどのように具現化していくか、農業経営者それぞれ経営責任で実行、取り組むべき問題であった。
今もTPP問題を農業経営者は自分自身の問題とどれほど真剣に考えているのか不明である。しかし、克服・改善するのは農業経営者自身しかいない。そのような行動を顧客である消費者は理解、支持をしてくれるものと確信している。
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宮坂隆男 ミヤサカタカオ
(株)デーリィーファーム宮坂
代表取締役
1946年東京生まれ。東京農大農業拓殖学科中退後、北海道で酪農実習、千葉県畜産試験場畜産研修生を経て、酪農場、西春別農協で人工授精師勤務。1976年、結婚後妻の実家で就農し、総頭数130頭、草地60haから経営開始。2007年法人化し、代表取締役に就任。現在の経営規模は総頭数460頭、生産乳量2850t、飼料畑240ha。根室酪農ヘルパー協議会委員長、西春別酪農ヘルパー利用組合長、21‘C根室酪農情報プラン会議会長(酪農家政策研究グループ)、TMRセンター(有)ウェストベース取締役を兼務。
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