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【“被曝農業時代”を生きぬく】
農産物放射能検査の第一人者・高妻孝教授が警笛を鳴らす「エスカレートする低ベクレル競争で問題解決はしない」
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第10回 2012年05月18日
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食品の放射性物質の新基準値が4月1日から適用され、より厳しい基準となった。新しい基準のもと、生産者はどのように取り組めば、消費者の不安を取り除くことができるのだろうか。
茨城大学理工学研究科教授の氏は、化学が専門で、放射線やレーザーを使ってタンパク質の構造や反応の研究をしている。福島第一原子力発電所の事故以降、茨城県を中心に福島県や岩手県、宮城県、山形県で農作物や土壌の放射能検査を支援するとともに、放射線の正しい知識を伝えるために一般市民に対する講演を行なっている。高妻氏にこれまで行なってきた活動や放射線測定に対する考え方などをうかがった。
(取材・まとめ/サイエンスライター・佐藤成美)
農家と共に考える
高妻氏は、昨年の3月下旬から1500以上もの農作物や水産加工物の放射線量の測定を行なってきた。きっかけは、友人に頼まれたことだったというが、それ以後、各地の農業法人や製造業、水産業などの放射能検査を支援している。
高妻氏の活動のスタンスは「一緒に考える」ことだ。農作物や土壌の測定を頼まれると、ほぼ必ず現地へ赴く。農家の人の話を聞き、農地の環境を見てから、検体を受け取る。実際の測定は、研究室でゲルマニウム半導体検出器を使って行なうが、測定を依頼する人の顔の見えない検体は測定しないという。測定した結果もただ伝えるのではなく、その測定値は基準と比べてどうなのかといった考え方をまず共有する。「産地の違う検体を測定して、同じ結果が出たとしても、農家の状況は個々で違うので、測定値の意味は変わります。そこで、測定した値をもとに、問題点や解決法を農家と一緒に考えます」と高妻氏は話す。
放射性物質の農作物への移行は、非常に複雑だ。その要因がわかったとしても、すべての農家にあてはまるわけではない。たとえば、セシウムの移行の原因はカリウム不足だとずいぶん報道された。しかし、多くの農家は「カリウムは不足どころか、過剰だ」と話した。「カリウムについては、農家のほうがよく知っています。農家は自分の農地のわずかな変化もよく把握しているし、いろいろなアイディアも持っています。その意見をよくきくことが大切です」。
メディアの報道により、調査のデータが独り歩きし、農家の困難を招くことがよくある。だからこそ、高妻氏は放射線量をただ測定するのではなく、農家の知りたいことがわかるように測定値の意味を一緒に考えている。
事実を正確に伝え、情報を共有する
高妻氏は、100回以上講演を行ない、放射線に関する知識を生産者や消費者に伝えてきた。「事実を正確に伝えることと情報を共有することを心掛けています」というように、高妻氏は講演では、科学的な事実のみを挙げ、解説をつけて考えを押し付けることはしない。Svやベクレル(*注)といった放射線の単位を説明するときは、練習問題を出し、一緒に答えを考える。講演を聞くだけではなく、自分で考えないと理解できないし、放射線に関する問題の判断もできないと考えるからだ。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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