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実は、農場主から経営断念の話を聞く前から、「ここの経営はうまくいっていない」と気づいていたという。私はこの話にむしろ驚いた。
最初は言葉もろく通じなかったが、1ヶ月もたつとスタッフと「ここで給料をいくらもらっているの?」という会話ができるようになった。出荷作業をすれば自然と出荷伝票にも目がいく。情報をたぐり寄せるうちに「これでは経営していけないのでは?」と薄々気づいたという。高校時代から事業にかかわってきた経験が、経営を見る眼を養ったのだろう。
食卓にあげる野菜作りを経営の基本に
年間120品目の野菜をつくるというほ場は、いずれも山を切り開いて作った小さな畑だ。
もともとはすべて棚田。減反が強化されるにつれ、稲作中心だった長島家も転作用に野菜を植えるようになった。自家用からやがて直売所に出荷をするようになった。
「食卓にあげる野菜を作り、同じ物を出荷するというスタイル。他人よりもおいしいものを出荷し、そうでないものは他から買ったほうがいい。この基本は変わっていません」
自宅前の10アールの畑は三等分され、キャベツ、ナス、そしてニースかぼちゃが植わっている。ニースかぼちゃはレストランのシェフから頼まれて作るようになったという。
ハウスに入ると、やはり複数の野菜が植わっている。長島は真ん中を通り抜け、片隅に植わっている植物をちぎって差し出す。「肉料理の付け合せに使うスウィートマジョラムです」。さらに摘んできたのはセルバチコ。「葉もおいしいけど、花もおいしい。蜜のような味がしますよ」。教えてくれた野菜の名前の半分は初めて聞くものだった。
ドイツから帰国し、すぐに就農した。
「帰国して絶対に作ろうと思った野菜のひとつがこのセルバチコでした」。
それにルッコラ、コーンサラダ(マーシュ)の3種類を近くの百貨店に売り込んだ。「(知られていない野菜は)売れませんよ」とバイヤーから言われた。それでも自分で食べて美味しいのだからいつか売れると思い、「1日10個おいてください。売れなければ赤伝(赤字伝票)を切ってください」。
結局、赤伝は一度も切らずにすんだ。店が販売に力を入れてくれ、パートも結構買ってくれた。そのうちに鎌倉のセレブたちが固定客になった。
ハウスの片隅で、一見雑草のような植物もすべて商品。「このハーブはりんごのような香りがします」「これはシブレット。和名はエゾアサツキ。西洋料理には欠かせない野菜」。どうやって食べればおいしいか、どんな使い方があるのか…作り手と使い手の両方の立場から話してくれる。レストランのシェフたちが長島農園に足しげく訪れる理由はこのあたりにもあるのだろう。
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長島勝美 ナガシマカツミ
長島農園
代表
1972年生まれ。日本大学農獣医学部農学科卒業後の95年4月から、ドイツ・ミュンヘンで1年間の農業研修を受ける。帰国後、実家の農場を継ぎ、120種類の野菜を栽培し、地元の百貨店、生協、スーパーに6割、残りを東京、横浜および地元のレストランに販売している。経営規模は2.5ha。年間売上額約3,000万円。ドイツ人のフランチスカ夫人との間に二人の子供がいる。労働力は本人、夫人、両親と3人のスタッフ。
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