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土門「辛」聞

汝の友、米国はジャパン・マネーをこうして食い物にする

「超帝国主義国家アメリカの内幕」(マイケル・ハドソン)――この本の存在を知ったのは、4月に発売された新潮新書「黄金の日本史」(加藤廣)。日本人が営々と築き上げた資産が、いかにして海外へ流出したか、あるいは外国勢力に収奪されたか。キン(黄金)をキーワードに日本史を時系列で物語風に読み解いた本である。「超帝国主義国家アメリカの内幕」に触れたのは、最終章「ドル経済を支え続けるピエロ国家」(210頁)である。ピエロ国家、わが日本のことを指す。今風なら、米国金融帝国主義にひたすら身も心も捧げる「貢クン」国家ということになろうか。日本人が築き上げた富を、他国に搾取されないよう気をつけよ。TPP交渉を想定しての警告のようである。
 「黄金の日本史」の著者、加藤廣さんのプロフィールがユニークだ。1930年生まれだから、御年82歳。東大法学部を出て、中小企業金融公庫(政策金融公庫)、山一證券などを経て、75歳でデビュー。最初の「信長の棺」(日本経済新聞)は、いきなり26万部のベストセラー。元総理の小泉純一郎さんの愛読書だったそうだ。


史上最大のペテンをうまくやってのけた

 「超帝国主義国家アメリカの内幕」(徳間書店)を、その著者がこう取り上げている。

 老生(著者)の手許に、この頃、アメリカで書かれた、ある一冊の経済書のコピーがある。題して、『超帝国主義アメリカ帝国の経済戦略』。著者はマイケル・ハドソン。なぜか、発売とほとんど同時に市場から消えた。版権ごと政府に買い上げられたとのことである。大幅改訂版は存在するが、問題の初版は、今もニューヨークの、どの古書店にも見あたらない。「ああ、その本なら、よく知っていますよ。一年以上も前から希望者のウエイティング状態です。稀覯本です」これが、12年1月の現地での答えであった。それもその筈。書名どおりの恐ろしい内容であった。

 筆者もすぐにAmazonで取り寄せた。中古本が300円ほどで売られていた。徳間書店が大幅改定版(第二版)を翻訳したもので、タイトルは日本風にアレンジされて02年に出版されたものである。原書は72年の刊行なので30年遅れての邦訳での出版となった。実は、最初に米国で出版された時、日本でも邦訳の動きはあって、出版社の名前こそ明かしていないが、著者のマイケル・ハドソンが、日本版への序文の中でこんな暴露話を紹介している。

 アメリカが日本に外交的圧力をかけたため、日本の出版元は、アメリカの神経を逆なでしないよう、出版から手を引くことになった(版権料を支払った後)のだという。~中略~本書は特にワシントンで売れ行きがよかった。読者は主にアメリカの役人で、実のところ本書は、いかにして国家の赤字を、他国の中央銀行を通して、そこの国を搾取する経済侵略的な手段に変えるかについての、訓練手引き書として用いられたという話を聞いたことがある

 原書では、「exploit」なる単語が用いられている。「搾取する」という意味のほかに、「食い物にする」という使い方もある。

 ところでハーマン・カーン博士、この名に覚えはないだろうか。未来学者と名乗り、その当時、「超大国日本の挑戦」(70年)という本を著し、「21世紀は日本の世紀」とさんざん持ち上げた方である。日本人は世間知らずのお人好しだから、ちょいと持ち上げられると、すぐにチヤホヤする悪い癖がある。そのカーン博士が、「超帝国主義アメリカ帝国の経済戦略」の出版直後に、マイケル・ハドソン氏と会って、こんなことを言っている。

 アメリカが、歴史上帝国を建設したどの国よりもどうやって上手(うわて)に行ったかをあなたは見せてくれた。われわれは史上最大のペテンをうまくやってのけたわけだ。

 史上最大のペテン――。あらためて確認しておくが、その相手は、わが日本のことである。ペテンの道具は、72年8月15日に、ニクソン大統領がテレビとラジオで演説した「ドル紙幣と金の交換を停止」したニクソン・ショックだ。そのカラクリは、日本版への序文(9頁)で端的に説明されている。

 71年にドルが金と切り離されて以来、諸外国政府はどうしようもないジレンマに陥ってきた。もし使い道のないドルを自国の通貨(ドイツ・マルク、フラン、あるいは円)に交換すれば、その通貨価値は上昇する。これは、その国の輸出品を世界市場で買い手がつかない値段にしてしまう恐れがある。これを避けるため、各中央銀行は最小限の抵抗を行なう新たな道をたどってきた。すなわち、余剰のドルをアメリカに還流させて、アメリカ財務省の証券や手形を買うのである。

 残念ながら、その時、これがペテンだとは、日本人の誰も想像できなかったハズである。金の交換ができないドル紙幣は、何の裏打ちもない。しかも固定相場制からの離脱となると、いずれ減価するリスクがあることを覚悟しなければなるまい。当時は、戦後長らくの固定相場に慣れていたので、誰も深刻なリスクとは思わなかった。

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