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当時はメード・イン・ジャパンの製品が米国市場を席巻していた時代である。対米輸出でしこたまドルを稼いでも、金に換えられず、はたまた円に換えて自国に持ち帰ろうとしたら、円の価値が上昇して輸出競争力を失ってしまう。マイケル・ハドソンが非凡なのは、ニクソン・ショックが日本を食い物にする仕掛けになることを直後に見抜いていたことだ。
同じように敗戦国で見事戦後の復興を遂げ輸出国になっていたドイツは違った。米国政府の「exploit」の魂胆を読み取ったのか、貿易の決済はマルク建てにした。財務省の資料では、80年代にドイツの輸出の8割はマルク決済で、日本は円建てが3割から4割程度だった。その分、余剰のドルで米国債を大量に抱えるハメになってしまったのだ。
こうして手にしたジャパン・マネーで米国は、減税の財源とし、さらにイラク戦の戦費に充てたのである。
85年9月のプラザ合意も、ペテンだったのではないかというのが筆者の見方だ。米国の輸出産業を防衛するために、ドル高是正、つまり円高ドル安に向かわせるべく、先進五カ国が協調介入の実施を合意したものだった。プラザ合意の頃は、250円だった円の対ドル相場が、積極介入のおかげで140円に急騰する。わずか1年数カ月の出来事だった。
その数年前から米国は米国債の大量購入を呼びかけていた。当時は日米間に金利差があり、日本の名だたる投資金融機関が米国債購入にドライブをかけた。80年代なら1ドル270円前後だろうか。かりに償還期限30年の米国債をその頃に買っていたら、その期限がそろそろやってくるが、今の80年前後の相場では円で受け取ると3分の1以下に減ってしまう。仕方なくもう一度買い換えることになる。米国人の高笑いが聞こえてくるようだ。
米国債は自由に処分できない“欠陥商品”
国際緊急事態経済権限法(IEEPA)という米国の法律をご存知だろうか。93年7月7日付け日本経済新聞のコラム「大機小機」に、「経済原爆」というタイトルで、こんな記事があった。
確か、ブラック・マンデーのあった87年に、兜町の有能な経営者から米国に「IEEPA」という法律があるのを知っているか、と教えられた。「国際非常時経済権限法」とでも訳したらいいのだろうか。「米国の安全保障、外交政策、経済に異常で重大な脅威が発生した場合」「外国とその国民が有する資産に関して」それを所有したり、取引したり、権利を行使することなどを「調査、規制あるいは禁止」したり「破棄、無効あるいは予防する」とうたっている。この法律が成立したのは77年、ドル切り下げというニクソン・ショックから6年後である。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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