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「スクラップ・アンド・ビルドってことですか?」
昨年訪れたドイツ・ハノーバーで催されたアグリテクニカ話の最終章である。本当はGPS関連やマッピング、施肥管理の話をしたいのだが、興味を持っていただける生産者よりも、オラッチには関係ねーと世界のバイオの流れを知ろうとしない前近代的な発想、そしてTPP締結後の農業は現在よりも、もっと農政のあり方で、農業が変化することを理解できない方は、現場から切り捨てられ、いや、もとい!新しいことを考えるだけで、うまくやれると信じている前頭葉農業に興味がある方たちの心配は政府も関与しないので、私も無駄な努力はしないで高みの見物といこう。
さて、トラクタの話である。
ドイツ・マンハイムには米国資本のディア社が作るトラクタ工場がある。今回の工場ツアーはホクトヤンマー株式会社の小野寺誠さんに紹介していただき、ドイツ・ツアー最後の日を飾ることになった。工場案内は北海道にも数回来たことがあるエリックさんだ。融通が利かない典型的なドイツ人ではなく、ロシア人、中国人など年間数千人の訪問者のガイドをする元国外担当のセールスマンでもある。
いろいろな工場を見て回ったが、やはりディア社の工場は特別なものを感じる。だが、他社の工場と違い特別なマシンを使っている感じはしないし、従業員がすごくマジメと言う訳でもない。一番の違いは床だ。床がきれいなのだ。米国の工場でもそうだったが、ディア社の工場は他社の工場と比較して明らかな違いがある。そういえば、日本経済新聞・わたしの履歴書の3月で紹介された大和ハウスの樋口武男さんも、勝負は足元の靴で決まる、云々と書かれていた。
このトラクタ工場はもともと、ディア社の工場として作られたわけではなく、日本にも戦前から輸入されたことがあるランツ・トラクタを製造していた。そして第二次世界大戦中は英国から発進した連合国のB17などで、徹底的に爆撃の標的になり、被害を受けることになったが、それには理由があったのだ。第二次世界大戦時、北アフリカ、イタリア、フランスへと進軍した米国と連合軍は米国製のM4・シャーマン戦車よりも明らかに口径が大きく、破壊力が強いドイツ帝国が製造する世界最強と言わしめた、ティガー戦車に悩まされることになった。しかし戦車での戦いでは圧倒的に強いティガー戦車でも、数の論理に勝る連合国の前では為す術もなく、結果的に歴史に埋もれる運命となったのは、同時期の太平洋戦線の日本軍の将来を暗示させたことはトラクタと関係するのか?
実は、その当時、ランツ社とディア社はヨーロッパ戦線で戦いを始めていた。あのポルシェ博士が命名したティガー戦車がドイツで作られ、同時期米国にあるディア社はM4・シャーマンタンクの主要部品を作っていたのだ。戦後、ディア社がヨーロッパに進出するに当たり、どこにするのか考えた末、1956年にあのティガー戦車を作った、宿敵ランツ社を買収することになったそうだ。
ここまで来れば冒頭の、アメリカがイラクやアフガンでやっていて、歴史的に得意とする、「スクラップ・アンド・ビルドってことですか?」の意味を理解していただけるだろう。
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宮井能雅 ミヤイヨシマサ
西南農場
代表取締役
1958年3月、北海道長沼町生まれ。現在、同地で水田110haに麦50ha、大豆60haを作付けする。大学を1カ月で中退後、農業を継ぐ。子供時代から米国の農業に憧れ、後年、オーストラリアや米国での農業体験を通して、その思いをさらに強めていく。機械施設のほとんどは、米国のジョンディア代理店から直接購入。また、遺伝子組み換え大豆の栽培を自ら明かしたことで、反対派の批判の対象になっている。年商約1億円。
北海道長沼発ヒール宮井の憎まれ口通信
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