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特集

今から始める漢方生産 全国に広がる契約栽培最前線



5. 漢方の科学的根拠(エビデンス)
医療用漢方薬は全て特例として臨床試験を受けずに承認されている。このため漢方薬は欧米では補完代替医療の域を出ないとの評価を受けてきた。理由の一つは「漢方薬には汚染された植物が混入し、安全性が担保されていない可能性」があること、もう一つは「処方する医師が納得できるだけのエビデンス情報の不足」だ。前者については日本の医療用漢方製剤がエキス剤であり、その成分を示すことで「安定した抽出成分で構成されている」「望ましくない成分は含まれない」ことが理解されるようになった。後者については、薬理作用機序(薬が効くしくみ)を明らかにして、二重盲検試験(薬の性質を観察者からも患者からも不明にして比較実験を行う方法)で薬効を証明していくことが求められるが、近年米国の学会誌に大建中湯(腸の手術後の腸管癒着の軽減用)や、六君子湯(食欲改善作用)などの作用機序が発表されるなど、徐々に研究が進んできている。

6. 日本の強みはエキス剤のノウハウ
中国を祖としながら独自に発達をとげた日本、中国、韓国の伝統医療は、考え方も大きく異なっている(21ページ表1)。中国や韓国では病気の原因やメカニズムなどの理論が重視されているのに対し、日本では理論を簡略化し症状と対処を直接結びつけてパターン化した。また、伝統医学が一時衰退し復活した後、日本では西洋医学をベースに医師免許を取ったうえで漢方医学を学ぶのに対し、中国や韓国では西洋医学と伝統医学の免許は別々にわかれている。
このような環境のなかで日本の漢方薬の強みは、エキス剤の普及が進みノウハウがあることだ。エキス剤は、生薬を煎じた液からエキス成分を抽出し製剤化したもので、生薬と異なり安定した品質と一定した効果が保証できる。

7. 漢方の国際標準化競争
漢方薬の国際標準に関してWHOとISOで重要な動きがある。WHOではICDという疾病の分類の統計基準があり、病名の付け方の国際ルールとして定着している。15年に改訂される次のICD-11に漢方薬の「症状」が登録される可能性があり、これが実現すると漢方薬の処方が大幅に増える。検討は05年から始まっており、まずはそれに先駆けて日中韓豪で東アジア伝統医学分類(ICTMEA)の作成に着手した。中国は、「TM」(Traditional Medicine)ではなく「TCM」(Traditional Chinese Medicine)にしたいと、WHO事務局が定めた名前に不満を持っている。中医薬の国際市場を開拓したい中国は3年前、ISOに中医学を伝統医療の国際標準とするよう申し入れ、提案を受けてISOは中医学の標準化を検討する専門委員会を新設。中国の案は医学の用語・手技から医学サービスの安全や品質管理まで医療全体の国際標準をもくろんでいる。中国の医療サービスが標準となると、日本の高い伝統医療技術が活かせなくなる恐れがあるが、政府が交渉に対応している中韓と違い日本は学会が手弁当で対応している心細い状況だ。

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