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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

紀州梅(その1)カルテル疑惑の裏側

様々な作物で伝統的な産地あるいは名門産地というものがある。しかし、その多くは時代やマーケットあるいは流通の変化に対応できず、産地としての地盤沈下が起きたり、あるいは新興産地に追い上げられているケースが少なくない。その理由は、伝統産地、名門産地であるがゆえに過去の成功体験にすがり、イノベーションを起こせないでいるからだ。伝統産地復活のために産地の政治家や行政が支援すること自体は当然のことかもしれないが、政治や行政による支援は産地のイノベーションを阻害することさえある。イノベーションは加工業者とともにマーケット本位の新商品開発や新市場開発によってしか実現されない。様々な名門産地、伝統産地を取り上げながら、そこにある問題点と可能性を考えたい。そして、このテーマは我が国の農業のすべてに当てはまる課題である。(昆 吉則)

全国生産量の7割を誇る紀州梅の産地が今年、大きな転換期を迎えている。6月14日、農家から購入する梅干しの原料価格をめぐる独占禁止法違反(カルテル)の疑いで処分が下りた。地元の加工業者とJAが長年続けてきた取引形態を実質的に禁ずる「警告」だ。加えて作柄は過去最低水準の予想。日本一の梅産地でいま何が起きているのか、現場から報告する。

 農家や加工業者、JAや行政が一丸となることで長い年月をかけて築き上げた紀州梅の二大産地である和歌山県田辺市とみなべ町。だが、前後の出来事からカルテル問題(詳細は39ページ参照)が起きた裏側を探ると、良好だった関係はいまや、消費不況の影響で瓦解しつつあることが垣間見えてくる。

 一段と冷え込みが目立った2月2日の午後9時過ぎ。永田町に近い地下鉄・赤坂見附駅の地上出口で待っていた記者の前に、和歌山県みなべ町の小谷芳正町長がロングコートに身を包んで現れた。赤ら顔で酔った様子の町長は、この直前、みなべ町出身で農林水産省の審議官まで上り詰めた元大物官僚と会っていたという。

 町長によると、その会合の目的はカルテルで訴えられた加工業者が、独占禁止法違反となっても合計で数億円から数十億円に及ぶとみられていた課徴金を負担させられないよう、公正取引委員会に取り計らってもらうこと。この元大物官僚は公正取引委員会の実力者と官僚時代からの間柄。後日、みなべ町の自宅で取材した記者に、町長はこう証言した。「サッカーで言えば一回目はイエローカード、二回目はレッドカードにしてもらえればありがたいとお願いした」。一方、元大物官僚は「それはできないと断った」と話す。

 9月30日投開票の町長選挙で再選を目指す現職が東京で動くのと合わせ、JAもカルテル問題の収拾に地元で躍起になっていた。

 昨年11月9日、JAみなべいなみの梅生産者らは「嘆願書」を公正取引委員会に提出した。カルテル問題で課徴金がかからない「警告」で済むように要望する内容。農家自らが地元で署名を集め、公正取引委員会に送った。この嘆願書の名義人は同JAの梅部会長名になっているが、実際には同JAの久保秀夫組合長の提案だったという。久保組合長は小・中・高と小谷町長と同級生。町内の農家は「横並びの田舎では断れないのを知った上での署名活動。苦境にある農家の訴えで始まったことに、なぜ町長や組合長は音便に済ませようとするのか」といぶかしがる。

 これと連動してJA紀南でも農家が署名活動を展開。集めに回った農家は「JAみなべいなみだけがやって、JA紀南が参加しなければ、加工業者からねたまれるから」と打ち明ける。

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