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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

紀州梅(その1)カルテル疑惑の裏側


 カルテル疑惑が発覚する直前、同JAの中家徹組合長は記者に対し「前々から加工組合を脱退すべきだと考えている」と語った。それでもJAは脱退できずに加工組合とつかず離れずの付き合いをし、カルテル疑惑を黙認してきたことで肝心の農家の気持ちが離れつつある。

 「農協は一体、どこを向いてきたのか。農協のための組合員ではない。組合員のための農協であることを忘れているのではないか」。08年に現職の小谷町長にバトンタッチするまで、合併前の南部川村長時代も含め7期27年と長期にわたって首長をつとめ、紀州梅の産地づくりに多大な貢献をしてきた山田五良前町長はこう苦言を呈す。

 向き合うべき相手を忘れているのはJAだけではない。「見通し価格」が84年以降での最安値を付けた10年。「農家が再生産できる価格帯を下回っている」という記者の質問に、大手加工業者の社長は「農家がつぶれるのは仕方ない」と言い切った。

 一方で、みなべ町の農家でつくる紀州みなべ梅干生産者協議会も同年10月、原料価格の低迷を受けて加工業者に原料を売るのを控えるように促す内部通達を出し、対立姿勢を深めた。さらに文書の発信元が町役場だったことが加工業者の神経を逆なでした。同町は同生産者協議会の事務局を務めている。ある加工業者は「まるで行政介入ではないか」と憤った。産地関係者によると、この後、加工業者は農家から原料を一時的に買い控えたという。

 消費不況の中で出来上がっていった農家と加工業者との対立関係。その間で揺れ動き、足場が定まらない行政とJA。経営的に追い込まれ、不満を抱えた農家が訴え出たカルテル問題は起きるべくして起きたといえる。


問われるのは梅産業が中心の地域経済を立て直すこと

 田辺市とみなべ町では、梅の関連商品のパッケージや商品ラベルなどの製造、輸送も地元業者が手がけている。梅の作況や価格は街場での共通の話題。いわば地域の経済や社会の中心に梅がある。地域のあらゆる人びとが梅産業に携わっている田辺市とみなべ町にとって、梅産業の衰えは地域活力の低下に直結する。

 かつて「南高」を生み出して日本一の梅の里を築き上げた、南部川村が制定した村歌がある。同村と合併したみなべ町の大手仲買業者・山崎果樹園の山崎タカシ社長は、この村歌が今の産地の人に問いかけているように感じている。

 「天地のめぐみゆたけくも/地の利は人の和に如(し)かず/協力一致の精神を/常に忘れず進みゆき/興せよわが村/南部川村」

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