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“被曝農業時代”を生きぬく

農地を未来に受け継ぐために 〜東電に勝訴するまで戦う〜



【農業をやりつづける基盤を作る】

 私どももやっと弁護士と結び付きました。その力を借りてADR(*)に申し立て書を出し、東電から補償金をいただいて、ともかく農業をやりつづける基盤を作ります。そのためには、土壌汚染や放射性物質の扱いがポイントです。本当に除染してくれるのか。除染してもらえれば、そこから事業計画を始めることができるんです。それと、放射能を予定しないで事業計画を組んでいたので、過去の負債や過去の事業計画が継続できない状況です。これをどう解決するか。後始末もしないで明日の計画を作れませんから。明日の世界がどうなるかがわからないのに計画も立てられないよ、と頭の中で割り切って日々やっています。

 私のようにギリギリの生活をしていれば、精神的にも金銭的にも逃げ出せません。60歳になってから転職も不可能です。でもこんなことを言ったってね、泣きごとになっちゃうから。今まで、苦しくても、夢を持ってコメ作りをやってきました。それが土を汚され、根底から否定されたんです。だから私たち農家のやる気や勇気ではもうこの問題に対応できません。


*原発ADR(原子力損害賠償紛争解決センター):原子力事故で被害を受けた人が原子力事業者に対して損害賠償を請求する際に、円滑・迅速・公正に紛争を解決することを目的として設置された公的な紛争解決機関(ADR)。

【放射能の災害は個人の問題】

 放射能の災害は、経済的な被害があれば、精神的な被害もある。個人ごとに違うので、集団起訴にはなじみません。みんなでやろうという共同意識は通用しないんです。

 ちなみに、農協さんがやっている損害賠償の請求は、実損の請求ですから損害賠償の請求じゃないです。農協を利用している人のみで、慰謝料の請求も裁判もしないという前提のもとでやっています。警戒区域や避難区域内では、国が手当てをしていますけれども、それ以外のところは自分から声を出して、立証し、交渉しないと賠償はありません。役場も村民のためにと賠償を請求したり、損害賠償の相談に乗ったりはしません。つまり、今回の東電に対する損害賠償は個人の問題なのです。だからものすごくきつい。農作業をし、放射能対策をし、資金繰りをしながら、こんな忙しい農業をやる必要性があるのかと考えてしまいます。本来、コメ作りというのは体が覚えているものですから、そんなに難しくはないんです。

 損害賠償請求を始めてみて、私たちには記帳の習慣がないことがわかりました。作業をカンでやっていますからね。損害賠償請求をするのに「証拠を出せ」と弁護士に言われても、何もあがってこないです。でも、弁護士と書類のやりとりをしているうちに、証拠は第三者証明だということがわかりました。国がこうだといえば、そこに行って確認をし、文章を書いてもらって、赤いハンコを押してもらって、初めて証拠になります。そういう膨大な事務というか、デスクワークがとても苦痛です。

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