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【江刺の稲】
コンバインの違いがコメ農業の競争力の鍵
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第196回 2012年08月10日
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さらに、すでに10a当たり1t程度の収量が得ることも可能で、そこそこの食味の品種も存在する。現在の平均収量の2倍の多収になるわけで、それだけで生産コストは現在の半分になるわけだ。それなら1俵6000円程度で輸入されるカリフォルニア米と比べても価格競争力がある。しかも、良食味のコメとブレンドすれば、外食業者たちは喜んで“国産米”として選ぶはずだ。
ところが、先述したようなコメの収穫技術体系と収穫時の品質管理が海外には無いことが日本のコメ農業の強みなのであると筆者が語ると、多くの人々はキョトンとした顔をする。まさに、国内のことにしか関心のない鎖国した我が国の農業界を象徴する反応である。
筆者は、Made by Japaneseを語って海外でのコメ生産の可能性を考え、ジャポニカ米生産に取り組む海外コメ産地の稲作経営者たちに収穫時の籾水分を聞いてきた。
カリフォルニア、ウルグァイ、オーストラリア、ロシアあるいはウクライナでも、彼らの収穫時籾水分は一様に16%程度だった。なぜなら、その程度の籾水分まで乾燥させなければ彼らの使う普通型コンバインでは収穫ロスが出てしまうし、米の食味に対するこだわりがないからだ。
北海道の麦作などでも使われている普通型コンバインは、立毛状態のコーンやヒマワリを収穫してツブツブの粒にして排出するような高性能な機械である。その性能を生産コストを下げるために16%位まで乾燥させなければコーンやヒマワリの収穫ロスは増えるし、能率や燃料費節減のためにも麦やインディカ米やカリフォルニアの中粒種もそのレベルまで乾燥させてから収穫する。日本の麦生産者は穂発芽を恐れて雨が降る前に30%位の高水分で麦を収穫している場合もある。麦やインディカ米は脱粒性が良いためその水分でも比較的ロスなく収穫は可能である。日本的な食味品質を求めればカリフォルニアの中粒種の場合でもより高水分で収穫したほうが食味は上がると思われるが、彼らは能率や燃料代を下げることを経営的に優先させる。
我が国では圃場での過乾燥は食味や品質の低下につながると指導している。地域や品種によっても異なるが、籾の黄化レベルが90%程度、登熟期からの積算温度が900~1100度程度、籾水分にすれば20~25%程度が望ましいとされているはずだ。そんな高水分条件で日本の品種をロスなく収穫できるのは我が国で開発改良されてきた自脱コンバインや汎用コンバインしかないのだ。25%を超える条件でも脱穀機の収穫ロスは自脱型で1%以下、汎用型でも3%以下である。しかし、海外のコンバインを使って籾水分25%で日本品種を収穫したら20や30%程度の収穫ロスは避けられない。そして、彼らは能率の面から日本型コンバインを導入しない。
日本の農業関係者はなぜこの事実を語ろうとしないのだろう。彼らは「日本の農業には競争力が無い」と主張し続けることが彼らの既得権益を失ってしまうからなのである。
ところが、先述したようなコメの収穫技術体系と収穫時の品質管理が海外には無いことが日本のコメ農業の強みなのであると筆者が語ると、多くの人々はキョトンとした顔をする。まさに、国内のことにしか関心のない鎖国した我が国の農業界を象徴する反応である。
筆者は、Made by Japaneseを語って海外でのコメ生産の可能性を考え、ジャポニカ米生産に取り組む海外コメ産地の稲作経営者たちに収穫時の籾水分を聞いてきた。
カリフォルニア、ウルグァイ、オーストラリア、ロシアあるいはウクライナでも、彼らの収穫時籾水分は一様に16%程度だった。なぜなら、その程度の籾水分まで乾燥させなければ彼らの使う普通型コンバインでは収穫ロスが出てしまうし、米の食味に対するこだわりがないからだ。
北海道の麦作などでも使われている普通型コンバインは、立毛状態のコーンやヒマワリを収穫してツブツブの粒にして排出するような高性能な機械である。その性能を生産コストを下げるために16%位まで乾燥させなければコーンやヒマワリの収穫ロスは増えるし、能率や燃料費節減のためにも麦やインディカ米やカリフォルニアの中粒種もそのレベルまで乾燥させてから収穫する。日本の麦生産者は穂発芽を恐れて雨が降る前に30%位の高水分で麦を収穫している場合もある。麦やインディカ米は脱粒性が良いためその水分でも比較的ロスなく収穫は可能である。日本的な食味品質を求めればカリフォルニアの中粒種の場合でもより高水分で収穫したほうが食味は上がると思われるが、彼らは能率や燃料代を下げることを経営的に優先させる。
我が国では圃場での過乾燥は食味や品質の低下につながると指導している。地域や品種によっても異なるが、籾の黄化レベルが90%程度、登熟期からの積算温度が900~1100度程度、籾水分にすれば20~25%程度が望ましいとされているはずだ。そんな高水分条件で日本の品種をロスなく収穫できるのは我が国で開発改良されてきた自脱コンバインや汎用コンバインしかないのだ。25%を超える条件でも脱穀機の収穫ロスは自脱型で1%以下、汎用型でも3%以下である。しかし、海外のコンバインを使って籾水分25%で日本品種を収穫したら20や30%程度の収穫ロスは避けられない。そして、彼らは能率の面から日本型コンバインを導入しない。
日本の農業関係者はなぜこの事実を語ろうとしないのだろう。彼らは「日本の農業には競争力が無い」と主張し続けることが彼らの既得権益を失ってしまうからなのである。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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