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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

紀州梅(その2)――消費拡大の行方

前回紹介したカルテル(下注)疑惑が象徴するように、紀州梅の産地関係者が不和に陥った根底には梅干しの消費不況がある。この根本的な問題の解決なしには伝統産地の再興がないことは、彼らの多くが認識していることだ。では、加工業者や農家らは需要創出に向けた次の一手をどう考えているのか。新たな動きを追った。

■注:カルテル
同種もしくは類似の産業部門に属する事業者団体の構成員が、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や生産量、販路などについて共同で取り決めること。不当な取引制限として独占禁止法で禁止されている。

 イベント会社が7月5日に東京都内の高層ビルの29階で開いた女性向けの酒の試飲会に、和歌山県みなべ町の加工業者・(株)紀州本庄うめよしの山西善信常務の姿があった。抽選で参加した主に20代後半から30代前半の女性たちに知ってもらおうと、売出し中の梅酒「善」と「壱」を持参した。どちらも、収穫したばかりの新鮮で完熟した「南高」をその日に洗ってすぐに漬け込むという、加工場の近くに自社農園を持っているからこそできる自慢の商品だ。

 とりわけ紅色が目立つ「壱」は、「露茜(つゆあかね)」という新品種を原料の一部に使っているのが特徴。果皮だけでなく果肉まで紅色という珍しい品種特性を活かすことで、梅酒といえば黄金色という常識を打ち破る、他社にはない商品に仕上がっている。その色に興味を引かれ、出展ブースの中でもとりわけ人が集まったことに、山西常務は手ごたえを感じた。

 同社は現社長が1971年に創業して以来、梅干しづくり一筋だった。それが09年から梅酒づくりも手掛けるようになったのは、需要が落ち込んでいる梅干しに代わる新たな商材が欲しかったからである。

 梅の消費拡大を図ろうと、みなべ町が内閣府から「紀州みなべ梅酒特区」に認定されたのは08年7月。酒類製造の免許を取るには年間6キロリットルの製造量が必須条件だが、特区を設けることで製造量の要件を1キロリットルにまで規制緩和した。小規模な事業者でも梅酒が製造できる、その最初の認定を受けたのが紀州本庄うめよしだった。

 同社の販路はほぼ自社ホームページだけ。ただ、梅干しの需要が落ち込んで原料価格が低迷する中で、農業生産の現場からも梅酒向け原料の出荷量を増やしたいという声が高まりつつある。その声を受けて売り込みのため全国を回り始めた山西常務は、「酒造会社としても梅干しは落ち込む一方なので、梅酒の消費を伸ばしたい」と語る。


梅干しの購入は減っても紀州梅は増産傾向のまま

 確かに、1世帯当たりの梅干しの年間購入金額は00年ごろから右肩下がりにある。

 総務省の家計調査によると、02年に1449円だったのが11年には1115円と、10年間で2割以上減った。核家族や単身世帯が増えたことで梅干しの漬け方が若い世代に伝わらなくなったり、家庭に梅干しが常備していないので食べられなくなったりしたことが要因だ。

 特に年代別の購入金額は若齢化するほど減少し、29歳以下では11年に209円と全体平均の2割にも満たない。これからの消費を担う若い世代を対象に、梅干しを食べてもらう従来からの働きかけも大切だが、その需要は伸びるどころか落ち込んでいる。

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