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【土門「辛」聞】
日独「6次産業化」エースは補助金に頼らない
- 土門剛
- 第96回 2012年08月10日
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ドイツ代表は、バイエルン州ブッターヴィーゼン市に住むハイナー・ゲルトナー君(41)。その地に150年続く畑作や養豚を営む大農家に生まれた。いまや本業は農業ではなく、2004年に大学時代の同窓生と立ち上げた再生可能エネルギー・ビジネスだ。農家としてドイツで初めての取り組みで、日本ならさしずめ6次産業化のエースというところだろう。
片や、日本代表は新潟県村上市の遠山忠宏君(43)。稲作農家に生まれた遠山君は、3年前に再生可能エネルギーの将来性に着目して「株式会社開成」を立ち上げた。最初は、メタン発酵で熱を取りだして施設園芸の熱源にするだけだった。ここまではよくある話だが、メタン発酵で得たバイオガスで発電機を回して発電、その電力を売電するのは、農家としてはおそらく本邦初であろう。
この両君に共通するのは、施設整備の補助金に頼らず、民間金融機関の借り入れで賄うようにしてきたことだ。ドイツでは、ごく当たり前のことだが、何事にも補助金がつきまとう日本の特殊事情を勘案すると、遠山君は大健闘だ。そもそも日独双方とも、優遇価格での買い取りそのものが補助金のような役割を果たすので、施設整備などにわざわざ補助金を出す必要はないという考えのようだ。
ゲルトナー君、以前本コラムでも取り上げたが、あらためて彼のプロフィールを詳しく紹介しておきたい。
1971年生まれ。ミュンヘン工科大学の大学院修士課程を終えて、ほどなく家業の養豚と畑作を継ぐことになった。この大学は、ドイツではノーベル賞受賞者を17人も輩出する名門だ。農業工学や農村環境をテーマに選んだ。大農家の長男として将来、家業を継ぐのに備えたとはいえない勉学ぶりだが、後日、それが再生可能エネルギーの起業に大いに役立った。ゲルトナー君が家業を継ぐのは、EU農業が大きな分かれ道に立たされていた2002年だった。いまは頓挫状態にある世界貿易機関(WTO)農業交渉が、関税の大幅な引き下げで妥結機運にあり、EU農業の先行きに暗雲が漂っていた。ゲルトナー君から、こんな話を聞かされたことがある。
「いずれ農産物の関税は、撤廃されるか、大幅に削減されるだろう。安いメキシコ産豚が大量に入ってくれば豚価は大きく下落する。収入が減少すれば、その分、所得補償によって補われるが、十分なものではない。そんな事情もあって再生可能エネルギーの将来性に着目した」
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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