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帰農者としての意地
入植当初の苦労をもっと聞きたかったのだが、あまり詳しく話さなかった。むしろ「私は帰農した人間。今は韓国もブームで大勢の人が帰農する。時々、帰農者向けの講演で話をするが、農業で身を立てるのならば、1つ目は最後までやりぬくこと。2つ目は自負心を持ち続けることが大事だと伝えます」と強調した。
この言葉の裏には、ここまで来るまでにあきらめかけたこともあったし、自負心を失いかけたこともあったということかもしれない。最初に見せた威厳ある態度は、帰農者としての意地、帰農者としてここまで登りつめた自負心によるものだったのだろうかと感じた。
ほ場を案内してもらい、昼食を一緒にとる頃にはすっかり打ち解けて、さまざまな話をしてくれた。
聞くと、故郷に戻ってから結婚したそうだ。奥さんはソウル市出身。「農業のことは何も知らない。年老いた両親と子供の面倒をみてくれれば何をしてもいいと言ったんです」
奥さんは数年前から、事情があって十分な教育を受けられなかった子供や成人を集めて、勉強を教えるようになったという。林さん自身も学習塾を運営してきた。同じ夢を叶えた奥さんについて語る時の誇らしげな表情は今も忘れられない。
2人の子供にも恵まれた。小学校5年生の長男、4年生の長女。
「長男は農業をやるといってくれるんです。だから息子には『ちゃんと勉強しないと農業はできないぞ』といって尻を叩いています」
林さん自身も帰農後、韓国放送大学校農学科を卒業し、現在はソウル大学の農業生命科学科の最高農業政策課程を受講中でもある。さすがに幼い息子を後継者にするかどうかは決めていないそうだが、「理事たちの息子もやりたいと言っている。いろんな役職を終えれば後進の育成をと思っている」と微笑んだ。これが林さんの素の姿なのだと思った。
変化をいとわない韓国
林さんの農場を日本の稲作農家たちが訪れていたらどんな感想を持つだろうかとふと思った。田んぼや設備を見て「まだまだ日本の方が上だ」と言うかもしれない。直播技術を確立してないことに物足らなさを感じる農家もいるだろう。私は少し違う見方をしている。
帰農者である林さんがここまでの経営者として君臨していたことに非常に驚いた。韓国は日本以上の学歴社会だ。もちろん、誇りを持って経営をしている農家も前からいる。それでも農業に対する社会全体の見方は低かった。
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林鍾完 イムジョンワン
瑞山干拓地営農組合法人(韓国)
理事
1963年生まれ。84年、禮山農業大学校農機械科卒業。ソウル市で学習塾を経営した後、故郷に戻り、96年より就農。瑞山干拓地に入植し、03年に瑞山干拓地営農組合法人を仲間の農家とともに設立。現在の経営規模は219ha。12年1月から稲作経営者の組織「韓国米専業農中央連合会」会長、韓国農水産大学現場教授などをつとめる。
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