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【海外レポート】
Agritec2012&イスラエル農業訪問記 最終回 砂漠農業は環境負荷が低く持続性が高い
- 有限会社川田研究所 取締役 川田肇
- 第4回 2012年09月14日
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こうした集団農場はイスラエルの全農産物出荷額の約8割を生産し、キブツ内には農場以外に様々な企業が存在し収益を上げている。日本でも有名なネタフィム社もキブツから生まれたグローバル企業である。キブツでの生活は基本的に無料であるため、社会のセーフティーネットとしての役割も果たしており、日本でも今後参考にできることは多いと感じた。よってイスラエルの農業はキブツなどを中心とした集団農業であり、資金、労働力なども日本に比べれば非常に潤沢であると思われる。
5、6箇所の農場及び農業試験場をまわったが、特に印象に残ったのはネゲブ砂漠にある農業試験場であった。この試験場は砂漠のど真ん中にあり、年間降雨量80mm程度しかない。地下数百メートルにたまり水がみつかり、この水を汲んで様々な農産物の試験を行っている。
この地下水はECが4.8dS/mで塩分とミネラル分がとても多い。トマトにこの水を点滴潅水することにより根にストレスを与えて、高品質で高糖度のトマトになる。トマトの他にメロン、スイカ、イチゴ(イチゴは地下水を除塩するそう)などで試験は成功し、desert sweetという商標をとって近隣農家で栽培しているそうである。実際にトマトのハウスを見学したが、収穫終了間際とは思えないほどりっぱな樹にたわわにトマトが実っていた。味は糖度と酸度のバランスがよく日本でも十分に売れるものと感じた。反収も20~30トンと申し分ない。この試験場では基本的に土耕栽培であったが、点滴システムで管理されており、基肥はなしで、肥料は点滴だけで行っている。
高糖度トマトの高収量化のヒント
ここでの栽培のキーポイントの一つは塩とミネラルである。これらの濃度と作物の品質との関係にはとても興味がわいた。もう1つは砂漠特有の寒暖差である。日中40℃以上になるが夜温は10℃近くになる。この強烈な温度差も高糖度になる要因で、さらに日中の暑さをキャンセルし作物へのダメージも少ないのではないかと感じた。日本での一般的な高糖度トマトの栽培では水を絞って栽培するが、その結果十分な収量は上げられない。その改善策のヒントを得た気がした。帰国後早速トマト栽培の試験を始めている。
いくつかの農場をまわって感じたことは、イスラエル農業(特に南部の砂漠地方)は土壌の三要素(物理性・化学性・生物性)をほとんど無視していることである。特に生物性については完全に考慮していない。日本では生物性を良くするために堆肥などの良質な有機物を投入して微生物相のバランスを整える。これは連作による微生物の偏りを防ぐためである。しかしイスラエルでは堆肥の投入はおろか基肥を全く施さない。必要最小限の肥料分・水分量を作物が必要な時に自動で点滴によって与えられる。当然土壌に過剰に蓄積されたり、流亡して環境汚染につながる心配はない。養液栽培の培土は1、2年で新しく交換され、養液、水は循環して再利用される。土耕の場合も基本的に砂なので肥料の蓄積はほとんどなく、また微生物もつねに太陽熱消毒されているような環境にあるので、菌数も非常に少ないと予想できる。ある意味持続性の高い、環境負荷の少ない農業といえる。
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川田肇 カワダハジメ
有限会社川田研究所
取締役
1966年東京生まれ。筑波大学大学院物理工学修了。高エネルギー物理学研究所(現高エネルギー加速器研究機構)非常勤研究員後、川田研究所に入社現在に至る。工学博士。
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