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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

紀州梅(その3)――農業経営の将来像

紀州梅の産地はずっと増産を続けてきた。しかし、主な用途である梅干しの消費が落ち込んでいる今、もはや需給が不均衡な状態に陥っていることは明白だ。そして、その状況は少子高齢化が加速するとともに厳しさを増すだろう。では、それを直視する農業経営者はどこへ向かおうとしているのか、農業経営の将来像はどうあるべきなのか。

 紀州梅の収穫期を迎えた6月半ば、二大産地である和歌山県田辺市とみなべ町の梅畑では不思議な光景が見られた。例年ならこの時期、農家は地面すれすれに青いネットを園地全体に張っている。梅の実が枝から落ちた際、地面に当たって傷つかないよう事前に受け止めて、雑草に紛れて拾いにくくなるのも防ぐ。傾斜地であればネットを伝って実が下方の窪みに集まり、一斉に収穫できるという利便性もある。それが今年はネットが全くなかったり、一部で張られていなかったりする園地が散見された。

 「わざわざ収穫するだけの量がないんやろ」。取材した農家たちはこう口をそろえる。つまり、ネット張りと収穫にかかる人件費に見合うほどには実が付いていなかったというわけだ。和歌山県では春先の低温で訪花昆虫のミツバチの活動が鈍るなどして着花率が落ちた。このため、県が4月末に発表した今年の作柄は前年比67%と過去最低水準を記録していた。


作柄の悪い年に差が出る梅農家の経営を見直す努力

 「天候不順の影響」「自分だけでなく(梅農家は)誰もが苦しい」――。収穫期間中、農家の間からはこの凶作を天候のせいにしてしまう声が聞こえてきた。だが、園地を巡回すれば、今年ほど紀州梅の産地が抱える農業経営上の課題がみえてくる年はないのではないだろうか。なぜなら、一部の農家は品目や品種での複合化を図ってきたり、園地管理の工夫で例年通りの収量を上げていたりするからだ。伝統産地特有の旧態依然ではなく、時代の状況や産地の歴史を鑑みて経営を見直す努力の違いが、結果として今年は色濃く出ている。

 とりわけ梅の価格が低迷するようになってから、JAや行政は農家に複合経営の実践を一層強調してきた。そのずっと以前から、みなべ町東本庄の久保賢一氏(53)は2.3haで梅のほか、35aのハウスでウスイエンドウを、30aのハウスでミニトマトを作ってきた。かつてはほとんど梅一本だった経営を複合化してきたのは、1970年代後半の寒波で梅が凶作になったことがきっかけだった。「梅だけでは危険が大きすぎる。リスク分散を考えて豆を、その後にミニトマトを入れた」。

 現在の面積で盛期には年間1500~2000万円あった梅の売り上げも、ここ数年の原料価格の低迷が大きく響いて1000万円にまで落ち込んでいる。さらに今年は収穫量が例年の半分で、500万円と半減する見込みだ。

 ただ、ミニトマトで年間1600万円、ウスイエンドウで同500万円の売り上げがある。施設で栽培するこれらの作物は安定した収入が見込める。常勤雇用3人と専従者3人(妻と息子夫婦) への給与1500万円を支払っても、経常利益は500万円強となる見込み。今年のような凶作にあっても、「十分に生活できる」と胸を張る。

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