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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

紀州梅(その3)――農業経営の将来像



「南高」以外の品種を増産、自前で基盤整備に取り組む

 山間部では、久保氏の園地がある平野部と違って、加温代が余計にかかるため施設野菜を導入しにくい。といって露地栽培で大きな売り上げになるような作物は限られている。そこで清川地区では梅で複数の品種を導入する試みが進んでいる。産地の栽培面積の9割を占める主力品種「南高」の出来不出来によって、全体的な収穫量や売り上げが大きく変動するのを避けるためだ。

 たとえば同地区のリーダー的存在である山本茂氏(60)の園地の品種構成をみると、梅畑3.8haのうち南高は8割と、産地全体からすれば1割少なくしている。南高以外では、いずれも果皮と果肉が紅色の品種「すももうめ」と「露茜(つゆあかね)」を育てる。他の生産者と一緒に、両品種とも独自に販路を開拓した町内の加工業者・株式会社紀州本庄うめよしに梅酒の商品「壱(いち)」の原料として卸している。梅酒といえば、その液体は黄金色が常識。それが両品種の特性を生かせば紅色の梅酒として売り出せるため、同社も栽培面積の拡大を期待する。「露茜」は他の酒造会社も注目していて、今後、さらに増産していく品種だ。

 もう一つ、北向きの園地には和歌山県果樹試験場うめ研究所が育成した自家和合性の新品種「NK14」を取り入れている。主力品種の南高は自家不和合性なので、ミツバチによる授粉が不可欠になる。しかし、今年のように春先が寒かったり雨が多かったりすると、ミツバチの活動が鈍り、結果的に着花率が悪くなる。

 この現象は特に日当たりの悪い北向きの園地で起きやすいので、NK14に改植することで避けられるわけだ。玉太りが良くないため品種としては南高に劣るものの、「北向きで日が差さない、寒くてハチが行かない園地なら十分に使える品種」と感じている。

 前述したように、山本氏は酒造会社への販路開拓に力を入れている。主力品種の南高についても青梅と梅干し原料で出荷する以外に、樹上完熟させたものを梅酒原料として酒造会社のキリンビールとJAみなべいなみを通じて契約栽培してきた。平均販売単価は、青梅で市場出荷する場合の1kg270~280円(JAの手数料などを除いた手取り)に対して、梅酒用の完熟梅は同300円という。また、梅干しの原料価格のように乱高下しないため、「安定した収入が見込めるのが良い」と話す。

 省力化に向けて独自資金で基盤整備も進めている。重機で園地を傾斜角20度ほどにならし、等高線に沿って園内道を敷いている。冒頭で紹介したように、紀州梅の産地では収穫前に園地にネットを張るので、枝から落ちた梅の実は20度ほどの傾斜があれば、ネットを伝って園内道のそばまで転げ落ちてくる。このため、作業者は基本的には園地の奥に入って行かなくても、園内道付近で実を拾ってはコンテナに入れ、道沿いに止めた軽トラックにすぐに積めるわけだ。

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