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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

紀州梅(その3)――農業経営の将来像


 みなべ町と日本政策金融公庫が11年12月、町内の梅農家220戸(回答数145戸)に経営実態を聞いたところ、08年の調査時と比べて状況は悪化していた。「順調」と「ほぼ順調」は合計21%(前回時46%)。一方、「苦しい」と「やや苦しい」は合計79%(同54%)。悪化した理由について、同公庫は「原料用梅干し価格の長期低迷が背景にある」とみる。

 まさにJAの組合員である農家が訴えたのは、昨今の梅干しの原料価格では再生産できなかったからだ。それを無視するかのように、カルテル疑惑をかけられた加工組合にJAも加盟し、取引価格を不透明に決めてきたことが問題なのである。そして、苦境を訴える農家の声を記事にするのを、事態を大きくしたくない産地のJAはJA和歌山中央会を通じ、機関紙の日本農業新聞に圧力をかけてつぶしてきた。そして同紙も、当時の編集局長が筆者に「JAとは闘えない」と言ったように、言論の弾圧に簡単に屈した。

 JAグループ内でそんな保身をかけたいざこざが起きている中、原料価格の低迷で一部の農家は化学農薬・肥料を控えて整枝・剪定もせず、放任園が相次いで出ている。5月にあちこちの園地に連れて行ってくれた農家は、今年の凶作の様子を見ては「理由は天候だけじゃない。心の不作が招いたもの」と繰り返した。

 経営を再建したい農家の願いがありながら、JAはそれに応えられていない。営農指導体制を例に取ってもそうである。今月号で紹介したように、産地の農家は梅を柱に複合経営に向かうのが一つの理想だが、梅づくりばかりを推進してきたJAには野菜づくりに長けた営農指導員が育っていない。梅の価格低迷でエンドウマメを作り始めた田辺市の農家は、JA紀南の営農指導員が作り方をあまりに知らないことに驚かされるという。「営農指導に来ても、逆にこちらが教えている有り様だよ」。

 加工業者との価格交渉で欠かせない、梅干し原料の毎年の生産量に関する情報収集も足りていない。あくまで塩の出荷量から推察しているだけである。過去に原料の在庫量に関する情報不足で、農家が安く買いたたかれるという痛い目にあってきたのにも関わらず、JAはあまりに無策ではないか。

 一方、一部の加工業者は不作年に備えて梅干し原料の貯蔵施設を増やしている。貯蔵能力を高めれば価格決定権を一層握れるからだ。

 資本力と情報力を着実につける加工業者側の動きに対抗するにしても、これまでの経緯からJAの力量を心もとなく思っているのは組合員だけではない。紀州梅の産地復興を願う県内外の関係者の多くから、そうした声を筆者は直接聞いてきた。

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