ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

他産業の成長が農業経営の可能性を広げる

戦後の日本経済が高度成長を遂げるための必要条件として、工業地帯への労働力供給源としての農村の存在があったことは事実である。しかし、都市に人口が集中する一方で、農村が空洞化し、日本の農業が衰退したという単純な捉え方は間違っているのではないだろうか。国内数カ所に大都市が集中し、それ以外の地域では産業が成長していない韓国などと異なり、我が国では日本中に産業都市が存在する。そこに日本農業のもう一つの成長のカギ、そして現代という時代であればこその農業の役割がある。取材・撮影/昆吉則

 首都圏から名古屋方面に向かう車窓には、日本経済の大動脈の歴史を早送りしたような景色が映し出される。石油化学コンビナートや製紙工場、商業施設、住宅街……。そんな景色の合間には、必ず農地が広がっていることに気づかされる。そして、規模の差や立地した産業の種類の違いはあるにせよ、我が国のほとんどの鉄道沿線で見られる景色だ。

 2005年の農業センサスによれば、我が国の農村集落のうち、69.6%は人口密度が1平方キロメートル当たり4000人以上の地域から30分以内の距離にある。我が国の農村の約7割は近郊農村ということすら可能なのだ。そして、そこに食料産業としての農業の新しい可能性と過剰の病理の中で果たすべき求められる役割が存在するというべきなのだ。

 今回訪ねた(有)はっぴー農産(代表・黒野一郎)のある愛知県豊田市は、アメリカでいえばデトロイト。我が国を代表する自動車産業の町である。しかも、新幹線の名古屋駅から電車を乗り継いでも約40分で黒野の農場に着いてしまう。北豊田の駅までの鉄道沿線には名古屋市の近郊住宅地が途切れることなく連なっている。そんな北豊田の駅から車で約5分。周辺に水田の広がるはっぴー農産はそんな場所にある。

 全国でも工業化の進んだ地域である愛知県であればこそ、農業が発展している事実を少し紹介したい。

 2010年の農業センサスの全国平均では、年間販売金額200万円未満の農家が72%を占め、1000万円以上の農家は8%に過ぎない。しかし、愛知県では、200万円未満の農家の数は69%と全国平均より少なく、逆に1000万円以上の農家が14%を占める。さらに、1000万円以上の農家層の総販売額が当該地域総販売金額に占める比率は、全国平均が59.8%であるのに、愛知県では78.6%に達する。つまり、1000万円以上の層が地域総販売金額の8割近くを稼ぎ出しているのである。北海道を除けば愛知県は日本で最も農業が発展した地域だといえるのだ。


黒野家の家風

 豊田市の猿投地区ではっぴー農産を経営する黒野家は、祖父の代に豊田に入植してきた新参者だった。先祖代々住んでいた三河湾に面した吉良町(2011年に西尾市へ編入)の村を飛び出し、新天地の豊田に移住した祖父の豊作(故人)は、農村社会のしがらみを嫌い、自分のやり方で農業に取り組もうと一大決心をしたという。三代目となる貴義(32歳)は、黒野家の家風をこう語ってくれた。

関連記事

powered by weblio