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新・農業経営者ルポ

他産業の成長が農業経営の可能性を広げる


 貴義は、地域の社会問題を解決するソーシャルベンチャー事業として、農業で何ができるか模索している。農家の離農は続く。その一方で、団塊の世代の定年退職をはじめ、消費者の農業への関心の高まりがある。貴義はそうした人々や社会の要請に応える消費者参加型の体験農園も展開している。貴義の考える体験農園とは、農家が種・苗・農具・肥料を準備して、農作業のノウハウも合わせて公開する農園である。野菜の作付計画から種苗の選択、供給を農家が行ない、入園者に講習会へ参加してもらい、農家指導の下、野菜の植え付け、管理、収穫を実施する。その結果、農家は安定的な収入を得ながら雇用の可能性を広げることができる。

 いわゆる練馬方式と共通する部分も多いが、地域農業の振興と新規就農者の育成も視野に入れていることに特色がある。行政主導で運営されている新規就農者育成講座にも協力する体制を整え、その受講生を研修生として受け入れてきた。すでに成果も出ている。非農家の人が数年で独立し、スイカとハクサイの輪作で順調に経営を続けているという。この地区は農業特区にも指定されており、非農家の農地取得が容易になるよう農地法上の特例が認められている。

 トヨタ城下町では大量の農地がその担い手を求め、非農家の定年退職者も急増している。体験農場が人々を癒やすだけでなく、新たな担い手育成の場として、さらには企業の福利厚生の場としても注目されていくだろう。

 貴義は両親から自分に託される未来を「これまでの企業理念を進化させて、三者ハッピーのコンセプトを追求していきます」と語る。

 三者パッピーとは、近江商人の三方良しの考え方と同様に、地域、お客さま、社員のハッピーを実現することだという。黒野家三代目の挑戦は、まだ始まったばかりだ。しかしそれは、日本の農業が目指す一つの方位であることは間違いない。(本文中敬称略)

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