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価格上昇の理由はもう一つある。国内のヤミ米流通の増加だ。コメ卸が一般流通米として出荷するためには、一定量を政府に拠出せねばならない。その手数料はt当たり1000円ほどで儲けが出ない。そこで、政府に拠出せずとも民間にコメが出せる闇ルートが発達した。何重にも賄賂をかさねる取引形態で、コメ価格が底上げされたのだ。
一方、政府系コメ流通組織にはコメが集まらない。政府米は人口の4分の一を占める低所得者向け配給仕向けだ。そもそも輸出禁止は、暴動を避けるため低所得者にコメを安く回す措置だったが、真反対の結果を招いた。安くなるどころか、政府米にコメが回ってこなくなったのだ。
その対策として、冒頭で述べたとおり、インド産長粒種を緊急輸入したというわけだ。それでも低所得者の不満は解消していない。短・中粒種に対する嗜好が強いエジプト人にとって、長粒種は口に合わない。「国産を食わせろ」と新たな不満が高まっている。
米を店舗で購入する一般国民にしても、品質は変わらずとも闇ルートを通った分、割高で買う羽目になっている。支払った税金も外米輸入に充てられ、国内農業に寄与しない。
政府は政策の失敗に気付き、禁輸を解いたが問題は山積みだ。
国が賄賂額の基準設定
国は輸出を急増させまいと、コメ1t当たり162ドルの輸出税を徴収することにした。それは輸出業者にとって賄賂と変わらない。賄賂がそれより安ければ税関職員に渡し、高ければ税関に正規に支払う。税関職員は賄賂収入を減らすまいと、輸出税より少し低いレートを提示してくる。いわば賄賂の上限価格を設定しただけで、密輸は後を絶たない。
これでは輸出量は禁輸前の水準に戻ることはない。海外の輸入業者にとっても、贈賄は取り締まられるリスクが高い違法取引だからだ。
2007年に100万tあったエジプトのコメ輸出市場のうち、すでに半分近くは米国産米が代替している。かつてエジプト米が独占していたリビアでは100%、米国産に切り替わった。低価格米については、後発のロシア産米に市場を奪われてしまっている。エジプトのコメ輸出業界にとって存亡の危機だ。訪問した精米プラント業者がこう訴えた。
「日本で買ってくれないか」
政府がコメ流通に余計な統制を強めれば強めるほど、困窮するのはコメ業界であり、一般市民であり、低所得者なのだ。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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