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【土門「辛」聞】
相も変わらず、官民歩調を揃えての大コケ予想2012年産、米価高騰の理由
- 土門剛
- 第98回 2012年10月12日
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質問 今年産の作況はどうか。
土門 7月末時点で早くも平年作(99~101)以下だったよ。夏場の天候回復があったとしても、作況指数ベースだと「97に近い98」かな。
質問 米穀データバンクは全国「102」、農水省統計部も「やや良」で、どちらも平年作以上の予想。コメの生産と流通を扱う農水省生産局も、この統計の数字を信じ切っている。
土門 官民歩調を揃えての大コケ予想だが、農水省全体がこれに乗っかっているところが、漫画的。これから起こる大騒動がまるで読めていないという意味で、だ。
質問 どんな大騒動か。
土門 デフレ経済下での米価高騰だ。こんなことは、あまりなかったことで、スーパーや業務筋などは、平年作以下と読み切っていて、ちょっと不安げだ。やがて消費者も高値米価に騒ぎ始める。その怒りの声は、農水省に向けられる。11月ぐらいには政府米放出で業者が圧力をかけてくるに違いない。ところが政府米放出にはルールがある。透明性とマーケットへ影響を与えないということだ。ところが総選挙も近づいている。消費者の意向を気にして政治家も放出で圧力をかけてくる。これだけの豊作予想をしていて、米価を冷やすための政府米放出はまずあり得ないと考えている。
質問 6月には政府米を4万t放出している。
土門 福島第一原発事故による代替供給という便法で放出してきたものだが、厳密に解釈すれば、ルール違反になる。そのときの公表資料には、代替放出はこれっきりと明言している。次に政府米放出があっても、もうこの理由は使えないし、それよりも農水省自らが平年作以上の作柄予想を出しているので、1993年の大不作にでもならない限り、政府米の放出はないと考えるのが常識的な解釈だ。
質問 その常識が通用するかな。
土門 民主党は政治主導だ。その常識が覆る可能性はなきにしもあらずだが、平年作以上の作柄予想を出していて、政府米の放出に踏み切ることは、農水省のコメ行政に大きな禍根を残すことは間違いない。その一つに米先物市場との関連がある。ルール違反の政府米放出は、市場へ悪影響を与える。先物市場が開設されている以上、ルール違反の政府米放出は、絶対に許されないことだ。場合によっては市場参加者から訴訟リスクを負うことにもなる。先行き、不作だと思って「買い」に走った投資家が、放出によって価格が下がり、損失を被るからだ。アメリカなら確実に訴訟されるだろうな。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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