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新・農業経営者ルポ

未知の領域に挑み続けるミディトマト業界の先駆者


 その後、奥松農園のトマトは生協が扱うアイテムの中で「ベスト100」の常連として定着するようになる。支持されたのはただ安かったからではなく、味が最初から一定のレベルに達していたからなのだ。奥松が特にこだわったのは、糖度だった。

 「一般的な大玉トマトの糖度が5度前後なので、それと差別化するためにもいろいろ作りましたね。通常の水耕栽培は低空飛行で、大体5.5か6.5の間になる。土耕栽培の有機は9度くらい出る時もあったけど、天候などの条件で6度に落ちたりして安定しない。実はなかなか糖度が乗らないから、あきらめて他の作物やろうかとバラの苗を頼んだわけ。苗が届くのが4月で、待ってる冬の間、試しに化成肥料の中に有機肥料を入れたら、トマトが甘くなったんだ」

 その水耕で作られたトマトが、奥松の運命をさらに大きく変える。ゴルフの参加賞で配られたトマトを一人の女性が家に持って帰り、それを口にした父親が「これはうまい」と驚いた。当時、宮崎空港ビルの総務部長だった長浜保廣(現・社長)は、ゴルフ場にどこで買ったトマトなのか問い合わせた。

 「それで奥松さんに『空港で売らせてもらえないか』と直接電話したんですよ。向こうの反応は『ええ? 空港でトマトをやる?』。そんなの売れるのか、という感じでした」

 奥松は最初拒んだが、長浜の熱意に折れて承諾。トマトは「太陽美人」と命名され、24個入りをひと箱1200円で販売した。空港における土産はお菓子、加工品が売れ筋で、かさばるうえに傷みやすい青果はあまり好まれない。しかし試食した観光客はその甘さに驚き、まとめて何箱も買う客までが現れた。好調な売れ行きに在庫が不足し、スタッフがあわてて農場まで車を走らせることもあった。

 「でも大変だったと思いますよ。『太陽美人』は糖度8度以上と決めたから、どれだけ持ってきても、糖度計で計って8度未満のものは全部返却。糖度を上げるのに奥松さんは相当研究したんじゃないですか」

 それでも品質の高さは口コミで広がり、200万円だった初年度の売り上げは、翌年400、次に800、1000以上と倍々ゲームに。「太陽美人」は空港の顔へと成長を遂げ、奥松のもとには取引を希望する連絡が後を絶たなくなった。最初は空港に650円で卸していたトマトの単価が、現在は1100円まで上がっている。

 一番いいトマトができるのは2月から4月の間だ。一定の積算温度に達すると成熟するトマトは、この時期は65日前後で熟れてくる。しかし5月中旬を越えると日中のハウスは35度以上に達し、夜温も上昇。35日で熟れてしまうトマトは、水っぽく、コクに欠け、糖度が落ちてくる。「2月から4月は誰が作っても出来がいい。それ以外をおいしくするのがプロの仕事」と奥松は言い切る。

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