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特集

レストランとコラボする 後編 取引を伸ばすための工夫と発見


 その仕組みはこうだ(図9)。農協の集荷場に荷物を搬入した生産者は自分が出荷したいと思う店舗向けにに自分の荷物を置き、卸企業まではJAが、スーパーの各店舗までは卸企業が配送する。生産者が出荷先の店舗を毎回自由に選ぶことでお互いが切磋琢磨するようになり、3百人以上の生産者が124品目を出荷し、年間販売額は開始から2年目で7千7百万円になった。

 販売の場を作るために公務員が特定企業を仲介するとはけしからんという批判もあったが、まず出口を用意したこの取り組みにより栽培技術の指導にも熱心に耳を傾けてもらえるようになり、大島さんは仕組みづくりの重要性を改めて確信した。


【稲作農家の野菜作りを支えるには】

 5年後の2009年、農業を取り巻く環境は大きく変わった。米価の下落で富山県内の大規模稲作農家は経営の先行きに強い危機感を持ち野菜作りも始めたが、従来のインショップ販売は手間が多くかかるため取り組みにくかった。他方、県内の流通業界は、卸企業の影響力が低下し価格競争が激化していた。

 稲作農家の野菜作りを支えるため大島さんが動いた先が、シェフだった。県内のシェフが所属している司厨士協会の会長を務めていたフランス料理のオーナーシェフ小西謙造さん(11月号の特集前編で紹介)を訪ね、どのような野菜が求められるか意見を聞いた。当時、仕事のためにフランス料理を食べにくる県の普及員は珍しく、「他の普及員も大島さんのように自腹でちゃんと食べにきて勉強しないとね」とシェフから冷やかされた。

 大島さんは、これはと思う品種の種を取り寄せて自宅の畑で試作した。ここからは普及員の十八番であり、自分で試して栽培のポイントを確認した後、使えそうな品種を普及計画として取り上げ、飲食店と農家をつなげていった。

 飲食店と最初に取り組んだ品目はカブ。特徴があり、美味しい野菜でスーパーにある既存野菜と差別化できる品種を考えた。特にフランス料理向けに煮崩れしにくいものを探し、「あやめ雪」と「白寿」を選んだ。司厨士協会料理研究会にカブを食材として提供して認知度アップに努めた。

 この頃の印象を小西謙造シェフは次のように話している。

 「大島さんが県内の野菜の話をしにくるようになって、我々は地元である富山のことを全く知らなかったな、と感じた。フランス料理で使うエシャレット、チコリ、ホワイトアスパラ、アーティチョークは問屋を通じて東京に注文してしまうことが多く、地元での調達は考えてもいなかった。富山県は稲作中心で野菜が作付できる面積が多くないのであれば、高付加価値の野菜を作ったほうが良い。交流する機会が増えるのは良いことだと思った」

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