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【危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性】
電照菊(その2)固定観念の打破
- 編集部
- 第5回 2012年11月14日
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菊をブライダル向けに出荷している非常に珍しい農業経営者がいるという。直前に得たそれだけの情報を頼りに、9月上旬、愛知県田原市の渡会芳彦氏(47)を訪ねた。
民家の一角にある彼の作業場に入ると、昼間とはいえ日があまり差し込まず薄暗い。それとは対照的だったからだろう、壁に張られた華やかで明るい色合いのポスターに目が行った。撮影場所は寺の縁側のようだ。ただ、そこに後姿でたたずむのは袈裟を着た坊主ではなく、髪を結った着物姿の女性。その背中から古びた板敷までまっすぐに垂れているのは、濃淡も大きさもさまざまの紫や緑、黄色などの満開の花で隙間なく飾られた長い帯である。
その隣には、全体が花に覆われたウエディングドレスをまとった女性のポスターもある。しばし見入っていた私に気付いたのか、渡会氏が教えてくれた。「ウエディングの花はすべて私が作ったものですよ」。
ポスターを制作したのは、渡会氏が栽培許諾権を得ている(株)デリフロールジャパン(静岡県浜松市)。菊の育種から苗の生産や販売で世界的規模を誇る、オランダ・デリフロール社の日本現地法人にあたる。同社のホームページに着物のポスターと同じ写真がある。そこには女性が送っているかのようなメッセージがある。
「一緒に暮らしませんか。特別な日でなくていい。特別な存在でなくていい。ただいつもそばにおいてほしい。きっとあなたを幸せにします」
商品一覧を見ると、日本の菊とはまったく違った色や姿の花が並んでいる。色とりどりの花はどれもが、日本特有のつぼみではなく、満開咲きの状態である。だからウエディングドレスはもちろん着物のポスターにも、死者の弔いや先祖霊の供養に付きまとう、仏花特有の暗く物悲しい雰囲気はない。むしろ、その対局にある生命の息吹や喜びにあふれていて、開放的である。菊をウエディングドレスの飾りにしてみたり、仏花との結びつきが強い寺と思われる場所で撮影したりするのも、特定の機会や場所でしか使われてこなかった菊の固定観念を打ち破るという意味で面白い一枚になっている。
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