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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

電照菊(その2)固定観念の打破


 沖縄から戻って西洋での利用法について調べたところ、面白いことにマムは仏花としてだけではなく人々の日常生活に溶け込んでいることを知った。それは日本的な菊のイメージを抱いてきた渡会氏に大きな印象を残した。おまけに栽培の仕方も日本の菊と変わらないことに生産意欲が刺激された。

 「そんな面白いものがあるなら作ってくれないか」。西洋での使われ方を教えた取引業者に背中を押してもらった。そこでマムの栽培を始めたが、何しろ市場にもエンドユーザーにも認知されていないため最初の3年は良い値がつかない。続けるかどうかを迷っていた矢先、(株)世田谷花き(東京都世田谷区)の一言で決意が固まった。「作ったものを全部持ってきてくれ」。

 同社は当時、マムを扱っていたが品種は限られていた。一方で渡会氏が持参したマムはデザイン性が豊富で、なおかつ後述するように品質について他の農家にはないこだわりを持っていた。同社は「渡会氏ほどの品質はないので、特定のファンが付いている。だから相場が低迷している時でも渡会さんの花が値崩れすることはない」と話す。

 渡会氏は重油高を本質的な問題と捉えていない。それはマーケットに適合すれば経営は成り立つという経験的な確信があるからだ。

 「消費者が望む花を作れば、価格はある程度ついてくる。そして重油高にも対応できる」

 これは一つの逆説である。前号で紹介したように、価格が高騰しているからといって重油の使用量を減らせば、当然のように花にボリューム感がなくなり品質は落ちる。重油代が節減できる作型に一斉に変更すれば、今年の6~7月のように全国的な供給過剰に陥る。生産者は今年の重油高への対応を通じて、マーケットを無視した経営が成り立ちにくいことを身に染みて分かったのではないだろうか。

 一方でブライダル向けに花を作る渡会氏は、重油を十分に使いながら高品質を追求している。流通では他の多くの農家と違って寝かせずに立てて入れる。寝かせれば重みで下の方がつぶれるためだ。花を立てるためのバケットを箱の底に置く。そこに水をためて茎を差し、流通段階で鮮度が落ちないようにする。1箱当たりに詰める本数は菊の種類によって違うものの、おおよそ通常の3分の2に当たる20~40本と少ない。もっと詰めて本数を多くすれば輸送経費は減らせるが、圧迫されて花弁がつぶれれば商品価値は落ちる。

 これらはすべて、切った時の美しい花そのままを消費者に届けるために模索し、独自に考案したことだ。取引先の生花店「green thumb~草の根~」(豊橋市)の植林健一代表は「渡会さんは栽培においては農家の中では珍しく基本に忠実。そして流通には人一倍気を使っている。これほどの品質を出してくる生産者はいない」と証言する。それだけの品質だからこそ種苗会社のポスターに彼の花が使われる。

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