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【エクセレント農協探訪記】
福井県・大野市農協
- 土門剛
- 第6回 1995年12月01日
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徹底した品質管理で酒造メーカーから産地指定
【系統集荷100%】
大野市農協は、福井市から九頭竜川を上流に沿って越美北線で約50分の距離にある。福井市の中心部を九頭竜川と真名川の一級河川が流れ、盗難に両白山地が屏風のように立ちはだかり、西北には800m級の山が取り囲む盆地である。美味しい米がとれる条件が揃っている。知り合いの米業者に聞いても、「あそこは福井県内でも屈指のAランク産地だよ」と太鼓判を押していた。その評価を聞いてとっさに新潟県内で同じくAランクにノミネートされている南魚沼郡のことを思い出した。「さぞかしヤミ業者もたくさんいて農協は米を集めるのに四苦八苦しているのだろうな」と。
大葦原登組合長に、「ここは自由米(ヤミ米)業者が米を集めて農協は大変でしょうな」と、いきなり不躾な質問を投げかけてみた。大葦原組合長は、「ヤミに出す農家はいないよ。集荷率はいつも100%だ」と、こともなげに答えてくれた。南魚沼郡でも優良米産地の農協は、自由米業者との間で集荷をめぐって激しいせめぎ合いを繰り拡げている。それに比べ、ここではそんな悩みは単なる取り越し苦労のようである。大葦原組合長に理由を聞いてみた。
「一つはね、地理的な条件があるな。県内でも北部にはね、商系の集荷業者もいるようだし、県外の自由米業者もいるようだし、県外の自由米業者も米を集めにくるようだが、ここでは業者もいなければ、外部から業者が入ってくることもないんだ。以前、業者に聞いたことがあるんだが、大野まで米を集めようとしたら運賃が余計にかかるらしいんだな。それでヤミが価格的に成り立たないらしい。福井市からは30kmほどしか距離はないんだが……」
30kmの距離は車で4、50分の時間距離だ。この微妙な距離が自由米業者を水際でくい止める壁になっているようでもある。
【職員が丹念に集荷】
農協の努力も見逃せない。大野市農協が集めるのは約17万t。うち7万俵が玄米でカントリー・エレベータ(約5000t)へ。残り10万tは精米で農協倉庫へ運ばれる。よその農協では類例がない集荷形態を大野市農協で採用している。よその農協では、農家が直接カントリーに米を持ち込むようにしているのに対し、農協職員が農家の庭先を回って一軒ずつ米を集めていること。ここが大きな違いのようだ。
その集荷も農協が作ったスケジュールで進行する。一度に米を集荷すると施設がパンクするからだ。品質面でも厳しいチェックがある。水分は主食用は14・5%、酒米用は15%。籾スリ調整も主食用の網目が1・85mm、酒米用は2mmに統一している。他の農協では、新食糧法になって品質管理に気づき始めたというのに、大野市農協ではすでに実践済みだ。大葦原組合長によれば、
「他の農協のことは分かりませんが、私どもの農協では、カントリーに出す米は少々手抜きでも構わない、なんていう横着な農家の米は一粒も出荷させません。カントリーに出す米だからこそ、きちんとした作り方をして欲しいと組合員さんに指導しているよ」
ということだ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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