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危機に直面する伝統産地 そこにある問題と可能性

電照菊(その3)情熱の足跡


 今年は初出荷ながら1本当たりの平均販売単価(8月分)は35円と高い。これで「来年はもっと増産する」と自信を得た。

 グループの目標は年間30億円。過去10年で10億円を増やしたのであれば、決して不可能な数字ではないように思える。さらに研修を終えた3人が来年には独立する。彼らは大分県が豊後大野市に増設する「お花屋さん第3団地(仮称)」を借りて、輪菊の生産を始める予定だ。この3万平方メートルに及ぶ大規模施設が完成すれば、目標にまた一歩近づくことになる。

 豊後大野市という新興産地で起きている事態に、旧来産地の杵築市や佐伯市は刺激を受けている。両市でもベテランの生産者が研修生を受けるようになった。独立時には県がリース事業でハウスの団地を用意している。そして「計画生産・計画出荷」を合言葉に、需要に応じた出荷を心掛けている。

 一連の様子を見守ってきた、大分県農林水産部園芸振興室の藤原博文氏は「優れた経営者が優れた後継者を生み、マーケット起点の菊づくりが広がりつつある」と語る。


産地を作るのは経営者自身

 翻って愛知県。消費の減少と輸入の増加に重油の高騰が加わり、東三河の生産者からは「国は重油代を補てんすべきだ」「このまま生産者がつぶれていいのか」といった声が漏れ聞こえている。国が何も手立てを打たれなければ、個々の経営は追い込まれ、栽培面積は一層減少するというのだ。

 だが、こうした声を挙げる生産者が増産機運にある大分県の現状を知った時、一体何を思うのだろうか。それでも同じように嘆き続けるのだろうか。

 困難に立ち向かうべきヒントはすでに与えられている。それは大分県が農業施策のスローガンとして掲げる「マーケット起点」。あるいは小久保氏が「1対9」と表現するところだ。商材としては輪菊や小菊でなくても、前回紹介した渡会氏らが市場を切り開いてきたマムがある。

 あるいは重油代が余計にかかる冬期に菊づくりの採算が合わないなら、第一回目で紹介した(有)マーコ(田原市)のように、菊を核にしながらトマトやイチゴを取り入れるという手もある。マーコは、菓子店からの要望に応じるため、長野県原村に越境して夏イチゴを作っている。その収入を重油代に充てることで、冬場も菊の出荷を切らさずに実需者の要望に応えている。

 財団法人・愛知県農業振興基金が07年に公表した調査書「県内キク産地の活性化方策~キク文化の発信を愛知から~」。冒頭の「はじめに」では、当時から問題になっていた消費の減少や輸入の増加が今後の脅威になることを踏まえ、産地関係者にメッセージを投げかけている。「(個々の経営だけでなく)産地のあり方を決定するのも生産者自身」であり、「キクを取り巻く状況を見据えて産地の方向を定め、個々の経営に反映することが最も大きな課題」と諭している。

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