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【江刺の稲】
高米価は日本のコメ農業を滅ぼす
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第200回 2012年12月14日
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米価一般の高騰を招いたのは生産調整を徹底させるために民主党政府が進めてきた水田政策という構造的問題がある。さらに、大手資本による産地農協の囲い込み、加えて高米価を維持するための全農のなりふり構わぬ対応が基本的理由だと、コメ流通に詳しいジャーナリストは言う。
さらに、今年の天候の影響で収量は増えてはいないが登熟が良く、網下の中米や屑米が少ないということが、網下の中米、さらには屑米の信じ難い暴騰ももたらしている。
地域によっては、網下の中米でキロ280円~300円。60kgにして1万6千800円~1万8千円と、網の下に落ちなかった正米の価格を上回るような価格で集荷業者が集荷するケースすらあるそうだ。屑米でもキロ150円~180円という話も聞く。
大手はともかく、中小の卸やさらにその需要者である煎餅、味噌、酒などの加工業者、あるいは炊飯業者や外食業などは、価格はともかく製造に間に合わないために買いに走る。でも、その原料価格を商品に転嫁できないために買い付けられても倒産の危機に瀕しているコメ需要企業が日本中にいるのだ。
彼らのほとんどは中小零細企業である。しかも、彼らは目立たずとも間違いなくコメの消費を維持してくれた業界である。すでに、昨年の春から西友の中国米販売、牛丼の松屋は豪州米の利用を始めている。
輸入米に関しては主食用としては10万トンまでという上限が定められているが、その拡大を求める声は、あらゆるコメ需要業界で高まっている。
直近のSBSの入札では、平均で1俵8千円を超える価格で入札が行われた。それは、コメ需要者の悲鳴がその価格になっていることを生産者や生産者団体は理解すべきだ。日本のコメ農業がいよいよ日本の需要企業に愛想をつかされかねない事態なのである。
にもかかわらず、10月31日に実施された政府備蓄米(平成18年産米)の加工用販売入札では、落札された3万8968トンのうち、66.3%の2万5825トンを全農が成約している。
もともと、この備蓄米販売はコメ加工業界から加工用米の不足が強く指摘されたために行われたものである。不足の原因は生産量の減少もあるが、全農が加工用米を大幅に値上げしたことがその要因だ。その全農自身が、加工用に販売される備蓄米の約7割を占有してしまったのだ。これは全農による加工用米価格を維持させるためのなりふり構わぬ振る舞いだと見えてくる。
この間、何人かの読者に今年のコメ販売の状況を聞いている。販売価格は上がっているようだが、かねて取引を続けている業者との間では、従来と同じ、あるいは上げても取引先の足元を見るような振る舞いはしていないと聞いた。当然だ。なぜなら、商売は今年だけではないからだ。
米価高騰と交付金に関して、そして、来年の価格はどうなる…というシンポジウムを計画している。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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