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新・農業経営者ルポ

最高級ぶどうでMade by Japaneseを目指す小さな農家の大きな挑戦


 経営者スピリットをフルに発揮し、2年前、秀果園を株式会社化した。会社化して3年目の2012年、従業員は8名となり、業績的にも損益分岐点に達することができた。収益を押し上げたのは、昨年、旧軽井沢の高級会員制ホテル内にある売店へ出店したことだ。生食用のぶどうはもちろん、独自に開発したぶどうベースのソースやジャム、ぶどう入りパウンドケーキ、ワインビネガー、そしてワインも販売したところ、大反響を呼んだ。匠の豊富な経験に培われ、卓越した栽培技術によって生産された最高級の生食用ぶどうをこの店で扱わせてもらうことで、秀果園は長野で新しい「高級果物専門店」のポジショニングを築いたといっても過言ではない。その店舗での半年間の売上が、会社全体の年間売上高の約3分の1を占めるまでになった。

 この経験が「お客様のニーズにあったものを持っていけば売れるという確信」となり、渡邉の経営者魂をさらに掻き立てた。渡邉は、高級果物店として有名な千疋屋や新宿高野、百貨店では三越などへみずから飛び込み営業を行い、契約を成立させてきた優秀なセールスマンでもある。

 「お客様に、『うちは千疋屋さんにも卸しているんですよ』と長野でいうと、感心され、さらにまた買って行ってくれます。ブランドの力ですね」と渡邉は笑う。この方法をタイでも実現したいと、昨年バンコク進出に漕ぎ着けたのだ。数年後には売上高1億円を目指し、売り方の工夫にも日夜取り組んでいる。


秀果園のMade by Japanese

 『農業経営者』が長年主張してきた“Made by Japanese”は、“Made in Japan”とは異なる。また、単に農産物の「生産、輸出」だけを指しているのでもない。Made by Japaneseの背景には、「優れた技術を使った日本の農作物の生産に加え、日本文化や和食と一体化させたマーケットを海外に作り出す」という考え方である。少子高齢化により今後縮小していくであろう日本市場の未来を考えると、輸出するだけではなく、文化とセットで信頼性の高い日本の農産物マーケットを海外に作り出していく必要がある。

 渡邉の場合は、日本の贈答文化の中で重要な役割を果たしてきた果物という位置づけを強調する。タイでも「高級果物専門店」のポジショニングを作り、販売だけではなく、異文化コミュニケーションも並行して行うことを構想している。タイでは、ぶどうやぶどうの加工食品と一緒に「ZOTO(贈答)」という言葉、そして日本の贈りものの慣習も伝えていきたいと抱負を語る。

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