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松尾 ライソン先生の考えを実地で学んだわけですね。
北野 そうです。そんなことがあって、ライソンさんはいま何をしているかなと。いつか日本で彼のことを紹介したいと思うようになりました。それでずるずるやっていたら、お亡くなりになっていた。それで、『シビック・アグリカルチャー』を紹介しなくては、と思い立ったわけです。
新自由主義の影響
松尾 さきほどNAFTAの話が出てきましたが、TPPのプレ版のようなこの自由貿易協定はメキシコにどんな影響をもたらしていました?
北野 メキシコ人の食生活においてトウモロコシの比重はきわめて大きい。そこには宗教的な意味もあります。特に南部は先住民族の人口が多いですので、文化的要素が強いですね。小規模の家族経営が半自給自足で、トウモロコシの一部や換金作物のコーヒーを市場に出すという形で生活をしている。NAFTAができてから2005年までの間に約270万人が離農したそうです。
松尾 それは大変な数ですね。
北野 これは確か、全農家戸数の約3割に当たります。多くの家族経営農家が壊滅的打撃を受けているわけですね。こうした事態が起きている時、まさに私はメキシコの南部を回っていました。それで先住民族の村に行くと、お父さんがあまりいない。つまり母子家庭になっている。もはやトウモロコシやコーヒーだけでは食っていけないから、男は出稼ぎに出ているんです。メキシコシティーにも行くが、数としては国境を越えて米国の労働者になっている人が圧倒的に多い。残った家族は米国からの送金に依存しているんです。衛生テレビのアンテナが立っている家があれば、「お父さんが米国でそこそこ成功したんだよ」と教えてくれる。
そうやって村の中に新しい格差が生まれていた。メキシコ社会は男尊女卑的なんですが、男がいないということは文化的なものや共同体的なものが解体することを意味するんですよね。こういった数字ではカウントできないような、社会の劣化が起きていることをメキシコの仲間たちから見せてもらった。
国際版の産直提携で対抗
松尾 自由貿易の影響にメキシコの人々は黙っているだけなんですか?
北野 それがそうでもないんです。注目すべきは、実践を通じて異議を申し立てていること。文句をいうだけではなく、彼らは行動で示している。トウモロコシと並んで換金作物として大きいのはコーヒーです。彼らはコーヒーで現金収入を得て、必要な消費財を買っているわけです。
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北野収 キタノシュウ
獨協大学外国語学部
教授
トーマス・ライソン著『シビック・アグリカルチャー』翻訳者。農水省や日本大学を経て、現在、獨協大学外国語学部交流文化学科教授。米国のコーネル大学で修士号(国際農業開発論)と博士号(都市計画学)を取得。
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