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それで過去にコーヒー危機があり、実はこの数字もいろいろ問題はあるのですが、売り上げ100円のうち、農家の取り分は1円とか2円とかいう話になりました。その時は国際市場が暴落したこともあります。ただもう一つ、メキシコの食糧庁みたいな団体でコーヒー公社がありましたが、89年に新自由主義の改革でいきなりなくなってしまったことも大きかった。価格補償制度がなくなり、市場原理になったんですね。農家はコーヒー収入がほとんどもらえなくなった。そんな中でコーヒーのフェアトレード※3が生まれたんです。これは国際版の産直提携ですよね。
松尾 フェアトレードは英国が始めたんではないですか?
北野 一般的には米国の団体が最初とされていますが、民芸品とかバナナとか、フェアトレードは世界各地で色々な形で生まれました。後にその呼称は統一された。ただ、国際フェアトレードのラベルは、オランダのNGO・ソリダリダードと、メキシコのUCIRIというコーヒー農協が連帯して始めたものです。ラベルのデザインはオランダで制作されたものでしょうが、仕組みはメキシコの農民が提案してきた。ですから、国際フェアトレード認証はメキシコの先住民族が発祥なんですね。
彼らはグローバリゼーションに文句を言ったり、被害者意識をため込んだりするのではなく、自分たちでできることで行動を起していく。場合によっては外国の団体と提携して、ビジネスモデルを作っていく。新自由主義の中でもきちんとやっているなと思いました。私が書いたメキシコの本はそれらをまとめたものです。だから『シビック・アグリカルチャー』は米国の話ですけど、私の中では地域主権という点でメキシコの話とかなり重なっています。ローカリゼーションというのは世界各地で個別にあって、そこで考えている世界観というのは普遍的でユニバーサルなものではないかと思いますね。いわば市場経済に対する社会の反乱ではないでしょうか。
国別ではなく地域別の視座
松尾 そうなんですね。だから『シビック・アグリカルチャー』を読むと、米国の農業も一枚岩ではないことに驚かされます。
北野 政治的に声を持っているのは、テキサスやカリフォルニアじゃないですか。そこに農場や食品会社があって産業を形成し、農務省につながっている。だから政治的な声として彼らの声は外国に聞こえてきますが、一枚岩ではありません。そういった大規模化は100年前から始まり、勝ち組と負け組が地域別に出ています。北東部であれば、負け組というか割と家族経営が残るのは、ニューヨークやニュージャージ、ニューイングランド、ニューハンプシャーとか。いずれも日本より規模は大きいけれど、米国の中では規模がぐっと小さい。
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北野収 キタノシュウ
獨協大学外国語学部
教授
トーマス・ライソン著『シビック・アグリカルチャー』翻訳者。農水省や日本大学を経て、現在、獨協大学外国語学部交流文化学科教授。米国のコーネル大学で修士号(国際農業開発論)と博士号(都市計画学)を取得。
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