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問い 米国は、「聖域なき関税撤廃」が基本原則と説明してきたが。
土門 そんなことを額面通りに受け取ってはいけない。国家間の権益がぶつかり合う外交交渉は、さまざまな駆け引きがある。今回のTPP交渉で米国は、砂糖や乳製品のような農産物への関税撤廃の「例外扱い」を求めており、カーク代表の発言を鬼の首でも取ったようにはしゃぎ回るのは、どうかと思うな。
問い カーク代表の発言は毛針か疑似餌みたいだね。
土門 そうとも言えるな。日本側が関心を抱く「例外扱い」を認めるなんて、たとえそれがコメだとしたら、米国にとって痛くも痒くもないはずだ。ミニマム・アクセス(最低輸入義務量)が倍になって、7割を米国産米が占めたとしても輸出額ベースで数千億円増える程度だろう。それとの比較では、関税以外のテーマである貿易のルール作りで要求を通した方が桁違いの権益を手にすることができると思うよ。
問い TPP交渉は、農業の問題とは違うということはよく分かった。
土門 米国が実現したいルールなるものは、一部には日本の経済社会の変革を促す薬になることは認めるが、先の貿易ルールを見渡すと、グローバルに展開する米系の超巨大企業の利益に合致したものが多いような印象を受けた。関税撤廃の「例外扱い」を勝ち取ったとしても、ルール作りで米国の主張を認めてしまえば、兆円オーダーでの権益損失となり、損得勘定では日本にとって「大損」ということになりかねないと思う。
問い 交渉に参加して日本に有利なようにルールを変えればよいという意見もあるが。
土門 いまさら日本が交渉のテーブルについたところで、交渉のアジェンダ(議題)はすでに米国によってセットされているので、結局、米国に有利なルールを追認させられる役割しか残っていないと思う。バスに乗り遅れるなというので、飛び乗ったら、行き先がどこに行くかも分からないし、ドア・ステップのところで握り棒をつかまるだけで精一杯、座席に座ることもできなかったということになりかねないな。
通商交渉は公開が基本だ
問い TPP交渉の現状は。
土門 12年6月にカナダとメキシコが交渉に加わり11カ国になり、会合を重ねているが、その内容については徹底した秘密主義なのであまり外部に漏れてこない。グローバルに展開する超巨大企業のM&A;(企業買収)交渉みたいに、とても厳しい守秘義務があって参加国は公表できないことになっているのだ。同1月27日の衆議院本会議で代表質問に立った志位和夫委員長が、「ニュージーランド政府の公式発表によって、TPP交渉では、交渉開始に当たって、各国の提案や交渉文書を極秘扱いとする、これらの文書は協定発効後四年間秘匿されるという合意があることが明らかにされた」と政府を追及した。野田佳彦首相(当時)は、「これは通常の交渉の慣行に沿った扱いである」と答弁している。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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