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新・農業経営者ルポ

意地と度胸で国境を越えた日本産米輸出のパイオニア

  • (株)新潟玉木農園 (株)エバーフリー 代表取締役社長 玉木修
  • 第104回 2013年02月15日

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2011年における日本産米の輸出量は2129t(財務省「貿易統計」)、輸出相手国のトップ3は香港、シンガポール、台湾。その台湾を中心に約100tを輸出していたのが、新潟県新潟市にある農業生産法人(株)新潟玉木農園だ。同社の若き経営者、玉木修は日本産米の輸出が時期尚早と見られていた2005年から輸出事業に積極的に取り組んだパイオニアとして知られている。あえて高校にも進学せず、若くして農業で食うことを決意したこの男、幾度も襲った困難をどのような覚悟で乗り越えていったのか。撮影・取材・文/紺野浩二

 「日本農業の国際化」などいう煽り文句の中で使われる「際」という漢字は、案外深い意味を持っている。国語辞書には、こんな意味が記されていた。「あと少しで別のものになろうとするぎりぎりのところ」。

 ぎりぎりのところにあと少し、ということは「すでに変わりつつある」ともいえるし、「依然として変わっていない」ともいえなくもない。つまり見る人の立場や考え方によってその意味が変わってくることを示唆しているように思う。

 ついこんな戯事を書いてしまったのも、(株)新潟玉木農園社長・玉木修(33歳)の偽らざる本心を聞いたからなのだろう。

 本誌以外のメディアで玉木の名前を知ったという読者は少なくないかもしれない。彼は8年前から自社産のコシヒカリを台湾に輸出しており、日本米輸出のパイオニアとして、これまで数々のテレビや新聞で取り上げられている。昨今では、TPP(環太平洋パートナーシップ)参加後における日本のコメ農業のあり方について意見をしきりに求められるという。その玉木が言うのだ。

 「TPPには結局賛成かそれとも反対かと聞かれても、答えは出せない。というか、導き出される答えがひとつだけだとすれば、そんなのは無理。ウチは国内事業と海外事業の2部門あって、国内事業の立場でいえば外国産米が安価で入ってくるわけだからノーだし、海外事業であれば輸出しやすい仕組みになるわけだから、農業のグローバル化にはイエスという答えになりますよ」

 ヘビースモーカーの玉木は、タバコを吸い終え、箱から新しい1本を取り出すと、こう言葉を継いだ。

 「でも、流れは止められないですよ。貿易自由化はあくまで国家間の話であって、日本の農家が何万人、いや何百万人反対したところで覆せるはずがない。反対署名はオバマ大統領のところに行くわけじゃないし、届けたところでどうにかなるはずもないじゃないですか。それだったら、TPPに参加した場合の仮説を立てる、影響を受けない戦略に基づき経営を実現していくしかない」


荒れていた中学時代 24歳で農業経営者に

 TPP参加後に日本のコメ農業は全滅すると見ている農水官僚や学者が東京大学や京都大学といった最高学府を卒業しているのとは対照的に、玉木の学歴は中卒だ。兼業農家の二男に生まれた彼は、学校での授業が体育を除いて嫌いだったという。「中学生時代には何度も警察のお世話にもなった」とも言う。

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