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【農業経営者ルポ】
米作りに「自信」はないが「責任」は持ってる
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第15回 1996年02月01日
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玄米30kgで
2万1千円は高いか?
西川佳男さんは5ha経営する水田のすべてで、農薬、除草剤、化学肥料をまったく使わない米作りをしている。今年はさらに1ha面積を広げる予定だ。
肥料は自分で配合するボカシ肥、籾がらクン炭、それにレンゲの緑肥。除草は除草機と人力、それに、コイを使う。あえて病害虫の防除資材というならクン炭を作る過程で出てくる籾酢液を使うだけである。機械化のレベルは高いが、労力は足りない。そのために、非農家の人々の協力を求めている。
生産する米は、消費者へも直接発送しているが、自然食品店や契約した米穀店、スーパーなどへの出荷がほとんどである。ちなみにその値段は、直売では30kgの玄米が2万1千円。精米賃は別である。また、米穀店やスーパーでは5kgで4千300~4千500円位で売られている。人が聞いたら羨ましがる値段であろう。しかし、西川さんにはそれを顧客に納得させるだけの理由がある。消費者が生産に参加していることを含めて、西川さんの嘘偽りのない完全「無農薬・無除草剤・無化学肥料米」に対する需要者の信頼と納得の値段なのだ。
西川さんは子供の頃から農業好きだった。少年時代は野球にも夢中だったが、田植え、稲刈り時には野球部を休んでも農作業を手伝うという子供だった。田や畑での仕事だけでなく秋の松茸取りや薪作りなどの山仕事まで、農家の自然とのかかわり方、伝統的な意味での農家の暮らし方そのものが好きだった。高校も農業高校に進学したいと思った。しかし父親の反対で普通高校に進み、卒業後は電電公社に18年間勤めてきた。
西川さんは20代の頃から「有機農業」に関心をもっていた。興味をもちながらも、勤めに出ながらの農業では果たせなかった。しかし平成二年、結婚し子供ができたのを境に経営の全てを「無農薬」の農業に切り換えた。それは勤めを辞め、本格的に農業を仕事にすることを決意してのことだった。地域の基盤整備の計画が決まったのも見越していた。
「除草剤1回使用」に意義あり!
西川さんは、自分でも使うが「有機農業」という言葉に違和感を感じている。農業とは本来が、自然の循環の中で作物を育て自然の恵みを得ていくことではないのか。それはあえて断るまでもないことだ。むしろ言葉としての「有機栽培」や「無農薬栽培」が商品の看板として一人歩きし過ぎているのではないか。
そして、鶏糞を投入しただけの「有機栽培」や文字通り誇大表示の「無農薬」と称する農産物の存在を含めて、生産者あるいは農産物流通業者の消費者に対する「不正直」な姿が気になるという。
また「減農薬」「低農薬」という言葉にも西川さんは抵抗を感じているようだ。少し長くなるが、西川さんの言葉を引用しよう。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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