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農業経営者ルポ

米作りに「自信」はないが「責任」は持ってる

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第15回 1996年02月01日

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 「私は農薬や除草剤を使ったものは駄目だと考えているわけではないのです。ところが『除草剤を1回だけ使いました』といった表現がある。しかしそれは『ゼロか1か』が問題なのです。そのゼロと1の間には決定的な違いがあって『程度の問題』ではないと思います。ゼロならともかく、『減』や『低』をあえて売り物にするのは『正直』でないと感じるのです。まともな農家なら除草剤は1回使えばあとは田に入らんでも済むものがあるくらい知っているでしょう。消費者の無知に付け込んでいるとは思いませんか。私はその1回が使えないから苦労しているのですからネ。同時にそれは、農家自身が農業で農薬や除草剤が法外に使われていることを消費者に自ら暴露していることになるわけですよ。その上で自分か殊更に大変であるかのように言ってるわけです。農薬を使っているのに『無農薬』というのはまさに嘘ですが、僕にいわせれば『除草剤を1回しか使っていません』という表現の中に農業の世界というか消費者に対する生産者側の『不誠実』のようなものを感じるのです。堂々と『除草剤を使いました』というべきではないのか。実際問題、除草剤を使わないで国民が必要とするだけのお米の供給なんて日本では不可能なのですからね。だから僕の米は皆に助けていただいて、しかも高い値段で売らざるをえないわけです。それでなきや続けられないから。それでもあえてそれを必要とする方が買って下さる」

 まさに正論であろう。

 西川さんはこうもいった。

 「私は米作りに自信なんてありません。人海戦術でこんな草ホウボウの稲作りなんですから。少なくとも私には除草剤をまったく使わずに作るというのは本当に大変で、私はまだ技術が未熟かもしれないけど、沢山の人が手伝ってくれているからこの面積をなんとかこなしているのです。それは、お手伝いをして下さる方がよく納得して下さる。でも本当の米作り、それはこうしてつくっていますって、食べていただく方へ伝える責任は持っているつもりです」と。

 八木町は、山の麓の粘土質の田が広がり。平均でも日本晴で600kg取るという高収量地区である。でも、西川さんの場合には品種はコシヒカリだが、450kgがせいぜいだそうだ。

 西川さんのお米が高い値段で買われていくのも、実際の生産量以上に店頭に並ぶ「魚沼コシヒカリ」と同様に、いわゆる商号だけの「無農薬」「有機農法」に対する需要者の不信感を裏返した信頼なのかもしれない。 


西川さんの「有機農業」


 西川さんの稲作りは収穫時に次が始まっている。レンゲの播種作業が稲作の始まりなのだ。

 レンゲは稲の収穫後に播く。昔は収穫前に播いていたことも知ってるが、コンバインで走り回るのだから具合悪かろうと思ってのことだそうだ。ワラはコンバインの拡散装置で15cm程度に切りながらばらまき、畦際は結束機でまとめる。

 レンゲのための肥料はやらない。ただ鋤込み前に籾がらクン炭を散布する。ボカシ肥料もレンゲの種も会員たちは手作業で播きかかる。その汗をかくこと自体に喜びを感じているようでもあり、機械で播いた方が速く正確かもしれないが、あえてそうしている。

 取材した日は雪の後だったが、雪をめくると、2月始めだというのにレンゲはもう一面にこんもりと茂っている。午後になると西川さんの田だけは雪が溶け始めていた。地温が高いのであろう。

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