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岡本信一の科学する農業

耕すことの功罪を考える



 だから土づくりをしているのだ、と答える方もいらっしゃるだろう。少し意外に思われるかもしれないが、土づくりが求められる最大の要因は、土壌の流失にある。土壌そのものが農地から雨、風によって飛ばされ、流されるのを抑えなければならない。土づくりは、土壌の保全のために行なわれるべきなのだ。

 はるか昔からの問題として、農耕が広がるにつれ、平地から徐々に傾斜のある場所を開墾して、畑が拡大した。ところが傾斜している場所では、雨によって土壌が流失しやすくなる。その結果、これまで草などに覆われていたり、森林だったりした場所の地盤が裸で露出するような環境破壊が続いてきた。

 世界的に見ると凄まじい勢いで土壌が損なわれている。例えば、ギリシャ全土は、古代ギリシャ時代には森も畑もある緑の大地だったそうだが、傾斜地から始まった土壌の流出によってすべての土壌を失い、現在のような岩がゴロゴロした荒涼とした景観になっている。土壌保全対策として先進国では不耕起による栽培が増えているというわけだ。つまり耕すことによる土壌の損失の方がはるかに大きい、ということに気づいたということである。


日本の傾斜地畑でも土壌の流出は進行中

 日本でも、この傾斜地における土壌の流失の問題には、何らかの土壌保全が必要になってくるだろう。いや、既に求められている。

 日本の傾斜地畑というのは、歴史は非常に浅く、多くが開墾から100年以内である。まだ問題が顕在化していないだけで、土壌の流出は密かにゆっくりと進行中である。傾斜の具合によっても違うだろうが、1年に0.5cmずつ進行して100年で50cm。気づかないだけなのだ。

 私がこの問題に本格的に興味を持ったのは、2年前からだが、注意して観察すると多くの場所で深刻になりつつある。

 私は多くの場所で収量調査を行なってきたが、傾斜地では当然のように丘の上の方、中腹、最も低い場所ではまったく収量が異なる。これを多くの方が当然だと考えているようだが、これこそが既に土壌が流れて、収量に影響を与えているという証拠である。収量調査と同時に土壌の物理性(土壌硬度等)の測定を行なうと、傾斜地では作土の深さがまるで違うことが分かる。つまり、土壌の流失がかなり進んでいるということに他ならない。

 特に急傾斜地ではもう土壌が流失しつくし、岩盤が露出しているところまである。そのような場所でも連作障害だと勘違いをして、通常の土づくりが行なわれていたりする。また、土壌を失ったことで耕作放棄された場所も出ているという話も聞いている。

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