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【土門「辛」聞】
TPPも大変だが、アベノミクスはもっと厄介だ
- 土門剛
- 第102回 2013年02月15日
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問い 訪米で交渉入りを表明か。
土門 2月末には安倍首相の初の訪米だ。交渉参加への流れは変わらないが、その場でいきなり表明するかどうかは、執筆時点(2月7日)では分からない。高市早苗政調会長が、新政権発足と同時にに交渉参加を容認する発言で口火を切ってきた。当然、農林族はこれに反発した。ウルグアイ・ラウンド農業交渉の時もそうだったけど、最初は反発させて強行突破、後は手厚い代償措置で丸め込むといういつもの展開になるような気がしてならない。
問い 自民党の条件とは。
土門 安倍首相や自民党幹部から、とにかくコメだけを関税ゼロの例外扱いにしてくれたら、交渉のテーブルには着くよ、ただし国益に背くような内容であれば、サインはしないよ、というメッセージが伝わってくる。だが、何が国益かについての言及はない。コメの例外措置を勝ち取ることだけが国益なのか、交渉全体を対象にしての判断なのか、その辺が曖昧だ。あまりコメの例外措置だけに目を奪われていると、国益上、取り返しのつかないことになる恐れがあると思うよ。彼らの発言は、コメを関税ゼロの対象外にすれば、畑作や酪農製品などは関税ゼロでもいいというように受け取れる。
問い 米国にとってコメの位置づけは。
土門 米国にとっては、重要度はさほど高くないと思う。TPP交渉で米国がズラッと並べてくる要求の中の、単なる「ワン・オブ・ゼム」、いくつかあるうちの一つにすぎない。これとは逆に日本はコメを聖域扱いだ。それを逆手にとって日本から大きな権益を勝ち取ろうとする作戦ではないかな。直近の統計で、米国産米の輸入量は28万t、金額にして176億円程度でしかない。関税ゼロになって、かりに国内米消費量(800万t)の2割、3割のシェアを握ったところでも、2000億円の売上げが立つぐらいだ。他に要求している項目と比べると、それほど大きい権益とは言えない。ただ政治的には大きな意味合いを持つので、交渉のテクニック上、高く売りつけて、もっと大きな権益を手にするというのが米国の作戦だろう。昨年4月に、米通商代表部のカーク代表が『例外扱い』を示唆したという話は、前月号でも紹介した。餌を投げてくる時期はちょっと早いのではないかという印象を持ったが、大きな獲物を釣り上げたいという米国の底意が透けて見えてくるような感じだ。
問い もっと大きな権益とは。
土門 以前にも指摘したが、金融だ。それも、郵貯銀行とかんぽ生命の豊富な資金が狙いかな。前者の預金量、175兆円、後者の保険契約準備金、93兆円。このジャパンマネーを米国経済に取り込むことが目的ではないかな。米国債を購入させて米国の財政を支えさせるか、ウォールストリートのヘッジファンドの餌食にしてしまうか、まさに米国の御意の為すがままだ。まだ交渉に本格参加していないので、どういう議題が取り上げられるかは明確になっていない。政府は、交渉関係国に関係省庁の代表者を派遣して情報収集した報告書を昨年4月にまとめているが、われわれがもっとも知りたいと思うような点については漠然としたことしか書いていない。その一方で、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、共済(例えば、農協共済)の具体的な固有名詞が新聞紙上で飛び交っている。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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