ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

風土、文化 そこに生きる全ての人々を経営資源にする農村経営者


 事業としては農地50haで水稲、30haで麦や大豆、ソバなどを作る。野菜では受託地4haでネギ、1・2haでトウガラシを栽培している。また100haを超える規模で水稲の作業や大豆の防除などを請け負っている。大変な奮闘振りだが、個人の農家も頑張らないと地域の農業は維持できない。それが紫芝の考えだ。

 「全国には集落営農で一本化したから安心というところもあるが、私はそれでは困ると考えている。特に中山間地だから300haある農地をこなすのは法人でも厳しい。稼動率は平場の75%ぐらい。それを解消するには個人の兼業農家でも維持できるような形態をとらないといけない」

 田切農産に出資する263人の農家の関わり方はそれぞれ濃淡がある。大規模農家は各自で営農活動をしている。兼業農家の中でも自前の農機具を持っている人は自分で農作業をこなす。そうでない人だけが農作業を委託する。地代は10a当たり7千円。草刈りも頼む場合には追加で9千円をもらう。全売上高は水稲の5千万円を中心に1億2千万円になる。


風土を発信する基地

 経営理念の一つ「環境にやさしい農業」を追求するため、なるべく化学農薬は使わない。またビオトープを作り、多様な生き物が育つようにしている。地元住民と生き物調査をする機会もつくっている。

 そうやってあらゆる地域資源を生かし、新たな農業を形づくろうとする田切農産。それが最もよく表現されているのが、農産加工品や工芸品を売る木造りの直売所「キッチンガーデンたぎり」だ。

 中央アルプスを背に県道沿いに立つこの直売所は、自然の景観に溶け込みながら、優しさと温かみが感じられるデザインになっている。この2月の時期であれば、車で通りかかった人は思わず寄ってみたくなるだろう。

 紫芝は20代の頃、農業をやりながら多くのアルバイトを経験した。コンビニエンス・ストアやガソリン・スタンドの店員、トラックの運転手など。「客と出会えるのは新鮮だった。農業だけであればそんな機会はない。だから、アルバイトはいい経験だったんですね」

 そんな中で培った彼の心遣いが行き届いた店は、どこまでも手作り感が漂う。女性スタッフが中心となり、店の装飾を手がけている。

県道沿いに掲げられている表札は、自身のアイデアを基にデザイナーに依頼した。中央アルプスに稲の絵。これが田切農産のシンボルである。
 玄関に近づけば、チョークで手書きしたボードが立て掛けられている。そこには「雑貨SALE!!」「3月2日たき火cafeタイム」などの告知とともに、「暖まりに来て下さいネ」のメッセージ。

関連記事

powered by weblio