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風土が与えてくれる天の恵みの中で生きてきた村と人。その中で人々が仕付けられた生き方。それは時として変革の足枷となる。
しかし、日本の社会が貧しい欠乏の時代から、飢えを恐れることもなく、むしろ過剰が社会や人々に様々な病理をもたらす時代になって久しい。過剰の病理に病む人々は、農産物の生産の場としての農村や農業としてではなく、過剰の病理を癒す農村や農的暮らしの中にモノとしての農産物より大きな価値を見出す。生産の場としての“農地”だけではなく、かつて人々の暮らしを保証してきた山や川あるいは “風土”や“文化”の全体に取り込まれることを求める時代になっている。
過剰な苦役を与えるわけにはいかないが、不便こそが面白い。現代の社会や人々の求めている価値に気づき、そこを訪れるお客様本位のもてなしを演出する力のある者がいれば、大きな投資も必要ない。中山間地域こそ適地だ。ディズニーランドのように大きな資本を投じて観客がその世界に取り込まれていく劇場を造成する必要もない。着ぐるみを着て来場者に愛嬌を振りまくタレントの教育や観客を自らの世界に巻き込むための台本や演出もいらない。昔からある風土そのものが舞台であり、あるがままの人々の振る舞いこそが顧客を満足させるのだ。
現代人としての当たり前の常識があれば、顧客や他者に対する礼節に今も昔もない。ただし、客のために自分であり、自らのためにお客様がいるわけではないという程度の弁えが必要なだけ。そこでは、風土の中で仕付けられてきた人々の振る舞いを知るあるがままの高齢者こそが主役なのである。でも、高齢者に沢山の賃金を払うことではなく、お客さんが彼らに心からの「ありがとう」の一言を言わせる術を持つ者。それが農村経営者だ。紫芝には天性の才能としてそれが備わっているように思えた。(文中敬称略)
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