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特集

売ることから発想するこれからの農業
作れるだけでは半人前!!

「ハムメーカー然としたものより、もう少し楽しい感じが白分かちには似合うんじやないかと。煉製の煙のモタモタ。工房の建物のログハウスの木材でモタモタ。伊賀忍者の煙幕でモタモタ……」

 どれもこじつけだと愉快そうに笑う。しかしこの名前に象徴される「遊び心」にこそ、成功の鍵が隠されているのだ。 


【手探りで進めた 銘柄豚の差別化戦略】

 モクモク手づくりファームの前身となったのは、1982年に設立された「伊賀銘柄豚振興協議会」である。豚肉の輸入自由化から10年が経過し、市場は輸人肉の攻勢と国内の産地間競争にさらされていた時期だ。年間約3万頭の出荷がある伊賀地区もその影響と無縁ではない。平均母豚数50頭の中小農家の集まりだけに生き残り策を練るのには必死だった。

 そのころノニ重県経済連の職員として養豚農家とスクラムを組んで改善事業にとり組んでいたのが、先の吉田さんと、現在モクモク手づくりファームの社長を務める木村修さん(46歳)である。彼らのリードで豚肉の差別化戦略が進められていく。掲げたテーマは3つ。「おいしい」、「安全」、「新鮮」である。 

「おいしい」肉のため、まず豚のエサを捜す。行き着いたのが、「ネッカリッチ」の名で商品化されている、木酢液を添加した飼料。これで育てると解体した肉の色つやがよく、試しに内臓を加熱しても縮みが少ない。つまり豚の健康によい飼料だとわかった。品種は産肉性もよく病気にも強い三種交配のLWXDで統一。さらに「安全」にかかわる抗生物質の投与については、出荷1ヵ月前からの休薬を厳守。残留抗生物質は、出荷する豚から毎日1、2頭を無作為抽出し。農協の検査室で、腎臓をとってチェックする。

 以上が銘柄豚の品質基準だ。その肉は処理後、迅速に消費者のもとに届ける。つまり「新鮮」である。 

 伊賀銘柄豚振興協議会の体制がこうして固まる。参加農家の認定基準も定められた。前述の豚の品種をはじめ、出荷日齢(190日以上)、出荷体重(100kg以上)、月齢による飼料の種類や量、豚舎の種類など、項目は多岐にわたる。

 賛同して集まった農家は、伊賀地区のほば3割の14戸。事務局は経済連に置かれた。会長には、参加農家の組織化に多大な貢献を果たした養豚家の福島正信さん(現在農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム会長)が就任した。

 そして1984年7月、東海・中部地区で初の銘柄豚「伊賀山麓豚」がデビューする。大手スーパー1社との独占販売契約によって600頭を出荷した。

 ところが、これがいきなり裏目に出てしまった。翌月になって、スーパーから出荷量を半分にするよう要請が来たのだ。輸人肉と値段的に対抗できないという理由である。困ったのは事務局。養豚農家から「嘘つき」と突き上げを受けながら、残り300頭分の豚肉を抱えて、地元スーパーや愛知県の農協まで売り込みに奔走した。

 そこにさらに追い打ちがかけられた。先の独占販売契約先のスーパーが「伊賀山麓豚」は自店のみで使うブランド名であり、よそでは一切使用禁止だと言うのだ。やむなく別の名前をつけることにした。それが「伊賀豚」である。中身はまったく同じだが、伊賀山麓豚は販売先のブランド名、伊習豚は生産者側の商標という位置づけだ。 

「相手の意向が優先ずる独占契約では、こっちの身動きがとれない。販売先は分散させなければだめ。いい勉強をしました。いまでは、全体出荷量の2割以上を一つの販売先に卸すことはありません」

 ちょうどこの時期、生協が産直運動に力を入れていたことも幸いして、伊賀豚は次第に売上げを伸ばす。PRの一環として、保育園や施設の給食の材料に提供したり、バイヤーはもちろん、スーパーの店頭で豚肉をスライスして売る女性販売員も呼んで試食会を開いたりした。

 しかし、いくら品質にこだわっているとはいえ、どこそこで作っているというだけでは従来の豚肉と何ら変わらない、生産者の「顔の見えない」商品でしかない。せっかく作った銘柄豚なのだから、養豚農家を売り場に出してPRしようということになった。

 伊賀豚が世に出て最初の1、2年間、毎週土・日曜に生産者が交替で小売店の売り場に立った。事務局の木村さんと吉田さんは毎週出ずっぱり。そこで「いらっしゃい、伊賀豚です」と声をかけるのは、養豚農家にはかつて経験のない慣れない仕事だ。しかし消費者の「おいしかった」という声が励みになる。この試みは営業的効果よりも、むしろ生産者の意識改革ということに大いに貢献した。

 地域社会に伊賀豚が定着していくと、事務局は次のステスフを考えはじめる。食肉加工品である。1987年の4月には、協議会から発展する形で、手作りハムの生産を目的とする、農事組合法人伊賀銘柄豚振興組合が設立された。 


(続く。以下PDF参照。)

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