ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

特集

売ることから発想するこれからの農業
作れるだけでは半人前!!

 いまでも、当時教えてくれた人たちには本当に感謝しています、と北島さん。

 「“普及所がなんて言ったって、俺のほうが上をいってる。現に作ってるんだから”っていう自信が高橋さんにはありました。あの人の俺はやってるよっていう言葉が、一番大きな励みになりました」

 そもそもホウレン草に着目したのは、仕事が楽そうだったからだ。実際、育苗作業のないホウレン草は、白菜に較べて作業時間的にも労働力的にも楽になることは確かだ。また収穫作業も、白菜は収穫、調製、箱詰、出荷までを圃場で行なうという重労働になるが、ホウレン草は屋内作業で出荷作業に取りかかれる。これなら家族3人でもと考えた。

 それでも、現在に至るまでには、多くの試行錯誤を繰り返した。冬場に無理して作って連作障害を起こしてダメにしたり、病気を気にし過ぎて土壌消毒をし続けると畑が使えなくなることも学んだ。そうした経験を通して、多少無理をすれば年間5作が可能な畑でも、最高で4作までにするという自分なりの考え方も確立した。そして、簡易ビニルハウスやトンネルの畑に、無理をかけずに効率よく作付けすることで一定収量を年間で確保し、安定した収穫に結び付ける工夫や作業ノウハウを構築していった。 


【作物に誇りを持てばこそ出来不出来には正直になる】

 ところで、北島さんは去年まで関東でシェア25%近いホウレン草の出荷任意組合を組織していた。大きな仕事である。しかし今は個人に戻っている。そのいきさつについて北島さんはこう語る。

「やっぱり考え方の歩調が合わないとだめ。続かない。農民はずるいんですよ。やっぱり市場の値動きは気になりますから。出荷できる数があるのに、『うちは ○○ケースしか出せない』と言って、高く売れるところに流してたりする。しかし出す以上、相手との信頼関係が大切です。たとえ他より少し値段が安くても、市場の人の信頼を裏切らないというのがなけりゃだめですよ。いまも私は市場出荷だけ。結果的にこのほうが安定するし、無理がない。それに出来不出来についても正直になれますから」

 正直になるということは、自分の作ったものに誇りを持つということだろう。だから市場担当者には真っ正面から自分なりの作柄評価をぶつけられるし、逆に市場担当者の厳しい品定めや駆け引きにもぶつかることになる。

 農家は当然作るに要した自分のコストを計算して利益を出そうとする。買い付ける市場は中卸へいくらで出すかを考えながら買い付ける。そして両者とも、その作物の出来高や作柄、今後の見通し、天候についての情報を持ちながら交渉に臨む。だからいい加減な交渉は成立しない。自分の作ったものに価値があると考えればおのずと売る気も強まる。そこに嘘はない。正直になれるということが、なにがなんでもほしい100円なのか、我慢してでも飲まざるを得ない重い100円かを決める。 

「価格を決めるのは向こう。でも出荷はこちらのものです。ところが農協出荷だと両方とも向こうに行ってしまう。価格も作物も自分のものでなくなる。その点市場流通では、出来不出来を自分か負うだけですから、実にすっきりしている」

 農業者が自分で作ったものを自分で売ることで、より一層意欲的になれるし、健全な緊張感のある生産活動に向かえる。北島さんはそう考える。では、安定を目指す意味で、これまで契約栽培的な売り方を考えたことはないだろうか。 

関連記事

powered by weblio