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ムボゴが扱っているのはモリンガという植物だ。俗に「奇跡の木」とも呼ばれ、民間薬として古くから知られていた。葉は食用や薬に、種はオイルを取るのに使われてきた。原産はアジアだが、東南アジアからアフリカに広く分布している。
96種類もの栄養素を含み、高血圧や糖尿病をはじめとする多くの慢性疾患に効果があるとして、インドでは伝統医学のアユルヴェーダで長年用いられてきた。
現在、この植物はアフリカの多くの国々で重要な換金作物として注目されており、その需要もケニアだけで年600トンに達している。日本でも最近では健康食品として知られていて、インターネットで検索するとおびただしい数のサイトがヒットする。
紅茶や花にくらべるとニッチな商品だが、ケニア滞在中、たまたまインターネット経由でムボゴの起業にいたる話を知り、そこにアフリカの新しい農業ビジネスの形を見る思いがして、ナイロビ下町のビルの中にあるオフィス兼店舗を訪れた。
メディアで働くキャリアウーマンだったムボゴが、モリンガと出会ったのは、いまから七年前、最初の子を生んでまもない頃だった。母乳の出が悪かった彼女のために、乳の出をよくする効果がある植物があると聞いたムボゴの夫が粉末のモリンガを手に入れてきたのがきっかけだった。
「数日で乳が出るようになったんです。私はとても驚いて、この植物についてもっと知りたいと思い、調べ始めました」
そうやってわかったのは意外な事実だった。モリンガはケニアのいたるところに自生しているのだが、ほとんどそのまま放置されていて、ケニアの農民たちも無関心だった。ただ、ケニアに暮らすインド人たちは、この植物のことを知っていた。彼らは自分たちで食べるために、この植物をもってきたら買い上げるからと農家に伝えていた。そこで農家の中にはトウモロコシや豆の畑の片隅にモリンガを植えて、インド人に売る者もいた。しかし、その換金作物としての可能性に気をとめる者はいなかった。
モリンガがビジネスになる、と考えたのはムボゴが最初ではない。彼女がモリンガに出会ったときには、すでに粉末のモリンガが販売されていた。しかし、それはあくまで数ある健康食品のひとつでしかなく、マーケットへの訴求力も強くなかった。しかし、ムボゴは「モリンガには大きな潜在力がある」と確信し、2年にわたるリサーチの後、それまでの仕事をやめて会社を立ち上げた。
「ビジネス的な関心だけだったら、そこまでしなかったでしょう。それだけではなくモリンガには、農家の困窮や雇用の問題、食糧問題など、いまのケニアの貧困層が抱えている困難に立ち向かうための多くの可能性があると確信したんです」とムボゴは述べる。
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田中真知 タナカマチ
作家・翻訳家
1960年東京生まれ。作家・翻訳家。1990年より1997年までエジプト在住。著書に『アフリカ旅物語』(北東部編・中南部編、凱風社)『ある夜、ピラミッドで』(旅行人)、訳書にグラハム・ハンコック『神の刻印』(凱風社)、『惑星の暗号』(翔泳社)など。
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