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江刺の稲

農業経営者よ農業界の常識に安住するな

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第203回 2013年03月15日

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農業経営学者の間では、水田農業では10ha程度でコスト低減は頭打ちになるという定説がある。拡大しようとすれば、点在した遠くの田んぼを管理するのに移動の時間を浪費する。また、作業の適期が限られるため限度を越えた規模拡大は、収量と品質を損うことになるという。

鳥取県の読者である田中正保氏は、自宅からほぼ地続きで約100haの農地を集積している。行政や農協主導の集落営農で実現したのではない。田中氏は地権者にそれを納得させる努力を続けてきたからだ。農地を集積するのも経営者能力の一部なのだ。地権者を説得し信頼を得る努力を続けて農地の集積をしているケースは田中氏だけではない。ましてや5年先を想像してみたらよい。関係する地域でコンバインや乾燥機の更新する農家はどれだけいるか。放っておいても農地は集まってくるのだ。

畦の草刈手間にしても、地権者に草刈をしてくれれば割り増しの地代を払うという条件を付けたり、隣り合った田の合筆を条件に提示したりしている人もいる。そして、農地集積の制度も使うのもよいが、農地の集積にもマーケットメカニズムは働く。やがては確実に地代を払ってくれる人に農地は集積する。農地集積も経営者能力の内なのだ。

無代かきの田植えから、乾田直播、堪水直播などへとチャレンジを進めてきた人がいる。様々な条件的制約で直播一本というわけにはいかないが、代かきから開放されたことで春作業に余裕がでて、後は天候次第で直播か移植を選ぶ。中には、プラウやプラソイラをかけた後にケンブリッジローラなどの鎮圧作業機だけで代かきをなくそうとしている人もいる。そうした人々は、普通の水田農家では持たないような機械も導入するが、それがイノベーションを実現し、コスト、品質を高める。さらに、単なる直播導入だけでなく、麦や大豆と機械を共通化させることで、機械の償却費を低減させている。

豊富な機械知識でメンテナンスコストを下げる。圃場の合筆や排水改善なども自らこなし、土壌管理を徹底すればこそ収量品質も上がり作業効率も改善できる。

作付け品種を多様化し、駆り遅れなどの品質低下を防ぎ、むしろコンバインや乾燥調整施設の利用効率を高める。コメの単価を追うのではなく利益を考えるのである。

さらに、汎用型(日本製普通型)コンバインも大豆やソバに使うだけで、稲麦には使わないという読者も多い。自脱型と比べて作業が遅く、ロスが増えたとしても、適期作業ができ、機械の償却も早まればむしろ経営利益は増える。“最高”の技術に自惚れることより“最適”技術を選択することのほうが経営にとってはプラスではないか。北海道のある読者は、自脱型の更新として汎用型二台体制で稲麦大豆に利用するという。さらに筆者が汎用型に注目するのは、水田での子実コーンの可能性が出てくるからだ。

松下幸之助氏や本田宗一郎氏のような経営者は、誰でも出来ることに満足せず、自らの夢と時代の求めに応じてチャレンジしてきたからこそ成功し、日本の産業社会の変革を実現したのである。農業とて同じなのだ。ましてや、松下や本田はそのために政府に助けを求めただろうか。

むしろ、過剰な政策的保護が講じられすぎたために農業改革は遅れてきたのだ。本誌読者のような方々は、現在のような微温湯に浸かってなかったら、もっとダイナミック水田経営を成立させていたはずだ。

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