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岡本信一の科学する農業

生産現場では研究を行なうべきではない

研究開発という言葉がある。実は研究と開発は、違う。本当の研究者であれば自明の話なのであろうが、私はあまり意識していなかった。分かりやすい言い方をすると、研究はこれまでにないものを発見すること。開発は、研究の結果を製造や生産の現場において普遍的にしてゆく過程を指す。実用的にする過程が開発に当たるのである。

技術の研究と開発は似て非なるもの

 研究では、可能性を発見することが重要で、例えて言えば100回の試行で1回成功すれば目的は達成できる。一方、開発は技術の具体化で、100回の試行で100回の成功が要求される。研究と開発の間にはテクニカルバリアーという高い障壁があり、これを無視すると複雑で役に立たない技術に収束してしまう。

 さらに、研究と開発の手法は大きく違う。研究はこれまでにないものを求めるので、言わば手当たり次第に調べて試すことが必要になるが、開発の場合は、実用的にするにはどうしたらよいのかを考え、実現できない要因を一つずつ潰していくという手法で行なわれる。

 農業の事例で考えてみよう。資材の場合には、開発とはその資材が持つ効能をいつも引き出すためにはどうしたらよいのかを考えるということになる。

 例えば石灰の有効性を初めて誰かが発表したとする。これは研究成果である。石灰はアルカリ性の資材なので、酸性土壌では効果はあるが、アルカリ土壌ではむしろ逆効果となる。最初は、良い資材ということで使用される。そして、技術開発が進むにつれ、アルカリ土壌では使用しない方がよく、さらに酸性土壌でも土壌のpHによって使用量を変えるなど最適な使用方法が編み出されるようになる。この過程が、技術の開発である。

 このように、技術の研究と開発は、全く意味が違う。研究と開発が一体となって、製品なり技術なりが現場で活用できるようになるのだ。


日本の農業技術は開発が遅れている

 最近、世界でも進んでいると言われるオランダの農業技術について見聞きすることが多いのだが、日本と比べて開発の比率が圧倒的に高い。学術論文などで発表される新しい内容はまさに研究に当たる。どうやら日本では産学連携という名のもとに研究結果をそのまま現場に持ち込まれることが多いように思う。その結果、新しい技術の効果が必ずしも得られず、定着しないのである。

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