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シリーズ TPP特集

本誌1・25TPPセミナーより 暴かれたおばけの正体(下)


 それから農村ではJAから回覧板が回った。事前に氏名が印刷され、サインだけするというものだった。署名を断れば、特定されてしまう。筆者の取材に和歌山県の果樹農家は「果樹はTPPの影響はほとんどない。でも、村社会だから断れるはずがない」と証言した。

 JAグループと連動した他の団体はどうだろう。たとえば、日本有数の水産地帯を抱えるある地方の漁業協同組合(JF)の幹部は次のように打ち明けた。

 「はっきり言って、TPPの漁業への影響はほとんどない。参加だろうか不参加だろうが、どっちでもいいんです。でも、JAが署名をやるといったら断れない。予算獲得などで農協が先頭に立ってくれているから、漁協にも恩恵があるといった面があるんです」

 こうした出来事や証言のもとをたどると、突き当たるのはいずれもJAグループだ。つまり、おばけも、それに怯える人々もまた、彼らによってかなり意図的に生み出されたといえる。「TPP問題は農協問題」、ということである。

 日本のTPP交渉への参加により、農業の構造改革が急速に求められることになるだろう。その中で、恐らく多くの農家”は離農を余儀なくされる。それはJAが最も恐れることである。なぜなら、彼らは最大の資産ともいえる政治力を失ってしまうからだ。また、農産品や資材の販売手数料の収入も減ってしまう。もとより農業協同組合であるのかという、根源的な問いを突きつけられかねない。
 しかし、構造改革はむしろ日本の農業にとっては大きな可能性である。農業収入を頼りにせず、サラリーマン収入だけで生活する人々が撤退すれば、本当に農業で食べていきたい人々に施策が集中される。たとえば、分散した農地で非効率的にやらざるを得ない状況は解消されるのだ。そうした構造改革は、むしろ専業農家が切実に望んできたところである。

 逆に農家の自立は、多くの場合においてJA離れにつながる。そういった組織の弱体化につながる事態を懸念したJAが、TPPおばけを生んできたといえる。あの手この手を使って根拠のない情報を流し、国民をかく乱してきたのだ。前号との特集と合わせて読まれた方には、そのことを理解してもらえたのではないだろうか。

 それにしても、このおばけはいつでも、どこにでも潜んでいる。農業・農村の既得権益を打ち壊そうとするたびに、姿を変えて出現してきたし、今後も出現するのは容易に予想される。

 アジア太平洋の自由貿易圏を形づくることにおいて、TPPはあくまで一つの道程に過ぎない。より大きな構想として、2020年をめどに完成させるFTAAPがある。その議論が深まる中で、おばけが大なり小なり再び現れないかどうか、気をつけなければならない。今回の反省を踏まえ、根拠のない情報に惑わされることなく、農業の将来に眼を向けていく姿勢が日本には求められている。(窪田新之助)

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