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新・農業経営者ルポ

僕らの景観を、素敵と思ってくれる人は、きっとどこかにいるはず



地元の人が憩える場としての店

 フットパスの本場・英国では、村のパブに立ち寄りながら歩くことを楽しむ習慣があるという。そのことを耳にした伊藤は07年、カフェとレストランを兼ねた店「Grassy Hill」をオープンする。

 牧場の入り口に立つ木造建築のその店は、手作りの感じがあふれている。骨格は旧陸軍の炊事場、床は古い牛舎の廃材をそれぞれ用いた。断熱材には牧草や羊毛、壁には牧場内の赤土を使う。

 店のそばには木製のブランコやそりが置かれ、周りの自然に溶け込んでいる。また、柵で囲った牧場では馬が干草を食む。もう少し暖かくなれば、豚やヤギも放す。そんな景色を窓辺に眺めながら、食事や喫茶ができるのだ。

 ここで提供する料理はビーフシチューやステーキ、ピザ、ドリアなど洋食ばかり。いずれも伊藤牧場の生乳や短角牛の肉、あるいは近隣農家の手による乳製品や野菜を使っている。もちろん牧場ならではのソフトクリームやミルクパフェなども味わえる。

 年間およそ1万7000人に及ぶ来客は観光者だけではない。むしろ地元の住民、特に主婦が子どもを連れて来ることの方が多い。だから、彼女たちを歓迎するための工夫もあちこちに施されている。

 例えば窓枠は大きく取ってある。外の牧場で子どもが遊んでいる時でも、親は食事をしながらその姿を気にかけることができる。店内では子どもが退屈しないように、絵本や玩具を備えている。

 近隣には大人が一息付けるような喫茶店はとても少ない。開放感のある中で自分たちの土地に思いをはせられる憩いの場所となれば、なおさらのことだ。

 ほかにも、地元住民の手による農産加工品や工芸品、欧米製の食器調理器具なども取り揃える。時にはイベントも開く。写真展やピアノの演奏会、フラワーアレンジメントやアロマセラピーの教室など。ここはいわば交差点であり、文化の発信地であるのだ。

 そんな女性らしい店を切り盛りする塩津が計画しているのは、婚活パーティーだ。過去に2回開催したところ、非常に好評だったという。「農村という、ほんわかした雰囲気の中でも、婚活ができるんだなというのが自分にとっても新鮮でした。本当は自分が婚活しなきゃいけないんですけどね」と笑う。

 酪農業の売り上げ1億2000万円に対し、レストランの売り上げは年間1850万円にすぎない。伊藤はこれを3000万円以上にしたいと考えている。そこで来年、牧場内に新しいレストランを開く。一号店の「Grassy Hill」とは違い、夜間も営業して酒も扱い、地元の人々が夜の時間を楽しめる空間にする。

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