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新・農業経営者ルポ

中国産の榊ありがとう、これからは国産が頑張ります!




祖母が出会わせてくれた天然榊


そんな時、“事件”が起きる。ある日、近所の蕎麦屋の主人が榊を買っていった。それからしばらくして怒鳴り込んできたのだ。そして榊を勢いよく投げつけられた。
「お前は偽物を俺に売りやがったな。俺はこういうものを一番大事にしているのに、うちの神様をどうしてくれるんだ」
実家の生花店では国産が手に入らないので、他店と同じように中国産を扱っていた。ただ、中国産は伐採してから国内に到着するまで1カ月前後かかるため、国産に比べて日持ちがしない。内心申し訳ないと思いながらも、客には産地を伝えずに売ってきたが、やはり見る人が見れば分かるのだ。ひたすら謝ったが、許してくれなかった。これにはこたえた。
気持ちがふさいだ時、いつも向かうのは決まって祖母が眠る山の上の墓地。墓前で手を合わせては、「今日はこんなことがあったよ」と報告する。そして、“あの日”もぎくしゃくした気持ちを和らげるため、いつものように祖母の元へ出かけていた。
直前に親子喧嘩をしていた。たどり着いた墓所で何気なく辺りを見渡すと、見覚えのある葉が茂っている。「あれ、これ榊じゃないか」。そう、辺り一帯、榊だらけだった。今までは気づかなかった。でも、その時にはなぜか気づいた。そして言い知れぬ感動を覚えた。
当時、佐藤はアルバイト先を実家から八王子市の生花店に切り替えていた。そこでは、自分にとってただの葉っぱにしか見えなかった中国産の榊が、あまりに売れるので驚いた。そのこともあったので、山で天然榊の群生を見た時、決意した。俺は日本一の榊屋になる、と。
「ばあちゃん、ありがとう」
実家に戻ってすぐ、家族に告げる。
「俺、明日から榊屋になるよ」
この宣言は誰にも信用されなかったが、翌日、米国への留学話とは違って今度は実行にすぐに移した。次こそ明確な目的が見えたのだ。
近所にワンルームマンションを契約し、実家を飛び出す。榊の研究に没頭するためだ。それから早朝に起きては山に入り、どんな場所に榊が自生するのかを調べて回った。やがて貯金は底を突き、電気もガスもストップ。身勝手に出て行った手前、実家に戻ることもできない。カセットコンロで煮炊きをして食いつなぐ。そんな窮乏の生活を送りながらも、榊から離れることはできなかった。
ある日、榊を見つけた山で、そこの地権者である西武鉄道の看板を見つける。伐採の許可を得るため、看板に書いてある番号に電話をかけた。しかし、対応してくれた事務員は素気無かった。

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